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[コメント] ペーパーボーイ 真夏の引力(2012/米)

二ヶ月で三作の出演作品を封切る日活はジョン・キューザックと心中するつもりかしら。ぶったまげるシーンには事欠かないが、まず刑務所でキューザックとニコール・キッドマンが初めて対面する件り、人はまったく肌を触れ合わすことなしに男女の性を営むことができる! 私はまたひとつ大人の階段を上った。
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**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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六〜七〇年代の空気を再現すべくフィルム感を強調した画面のざらつきとマシュー・マコノヒーの顔の傷痕を目にするだけで大いに期待が高まるというものだが、物語そのものもまたべらぼうに面白い。どうせキューザックが無辜であったりなかったりして釈放されたりされなかったりして挙句にザック・エフロンとキッドマンがくっついたりくっつかなかったりするお話なんだろう、と高を括った大方の観客ももちろん全面的に誤っているとまでは云えないが、マコノヒーがマゾの行き過ぎで襤褸雑巾になるあたりからの展開のあてどなさはまったく予断を許さない(アイパッチ・ルックも素敵!)。

そして釈放されたキューザックが本性を現すことで(というか、本人ははじめから隠してなどいなかったのですが)ようやく映画もその本性を露わにする。これはめちゃ怖い映画だ。その「常識・良識をいっさい共有できない他者」に対する恐怖の質はトビー・フーパー悪魔のいけにえ』とも近しく、米国南部の沼地に行きたくなくなる系映画としては史上一位を争うだろう。終盤、キッドマン奪還のためキューザック宅に向う道すがらは惨劇の予感を漂わせつつも兄弟の微妙な距離感の演出で微笑みさえ誘うが、一転あまりにあっけないマコノヒーの殺害を前にしてエフロンは恐怖と無力感に支配されてベソをかきながら逃げ出すことしかできない。物語の上では取り立てて主人公らしい働きをするでもないエフロンだが、映画の感情はここでも彼のナイーヴネスを基調にして育まれている。またキッドマンを中心にして眺め返せば、「異界への嫁ぎ」という中期ヒッチコック的主題の即物的解釈を得ることもできるだろう。

クラゲ事件の馬鹿馬鹿しさも突き抜けている。よりによって親父の新聞で報じられるという落ちも完璧だ。

(評価:★4)

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