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[コメント] グランドピアノ 狙われた黒鍵(2013/スペイン=米)

セルズニックにゴーダルー。演出家の映画史コンシャスは瞭らかで、史的な位置づけとしてはアルフレッド・ヒッチコックブライアン・デ・パルマを結んだ直線の延長上に置くのが最も当たり障りのないところだろう(頭髪を撫でつけた正装のイライジャ・ウッド側面シルエットはヒッチコックを模している)。
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**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
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という誰しも思い浮かべるだろう指摘を済ませて事足れりとするのではいかにも芸がないので、いささか冒険的に次も付け加えておこう。ピアノの被写体的可能性を限界まで引きずり出すべく縦横無尽に走り回るカメラはジェイ・チョウ(+リー・ピンビン)『言えない秘密』、上演が続く舞台の裏で繰り広げられるイライジャ・ウッドとジョン・キューザックの取っ組み合いはサム・ウッドマルクス兄弟オペラは踊る』だ。

さて、奇抜な実験的技術が披露されても決してそれ自体が目的化してはおらず、あくまで「面白さ」を実現するための方法にすぎないと心得ているあたりが頼もしい。アレン・リーチの殺害とステージ上の演奏をワンフレームに収めた疑似スプリット・スクリーンも、セットを利用して編集点を隠蔽したヒッチコック『ロープ』における疑似ワンカット的な工夫精神を受け継いだものと云えるが、「ワンカットであること」そのもののメタ的な面白さに留まってしまった『ロープ』のそれよりもエウヘニオ・ミラの用法は成熟している。

指揮者のドン・マクマナスは楽章間でスタンダップ・コメディアンはだしの巧みな弁舌を振るって聴衆の笑いを誘う愉快なキャラクタだ。もっと「普通の」指揮者であっても物語にとっては何の不都合もない。それどころか、ワンシチュエーション・スリラーの軸を揺るがさないためにはむしろそのほうが望ましいくらいかもしれない。それでも指揮者役をこのように造型してしまえるところが演出家の見識であり、「映画」のふくよかさである。

突飛な設定や撮影技巧が耳目を集めるところかもしれないが、そのような作が陥りがちな独善性の罠を、演出家は広い視野を保って賢明に回避している。

(評価:★4)

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