[コメント] アスファルト(2015/仏)
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発端の着想が振るっている。第一に宇宙飛行士マイケル・ピットを集合住宅の屋上に降らせようという荒唐無稽が大いに光るが、これから語る物語の前提としてギュスタヴ・ケルヴァンを車椅子に縛りつけたい映画が、彼に脚を怪我させるために「エアロバイクの漕ぎすぎ」という人を食ったギャグ的原因を与えてしまうというのも決して普通の発想ではない。作劇上、怪我さえすればその理由は交通事故でも階段を踏み外すでも何でもかまわなかったはずだのに。彼がヴァレリア・ブルーニ・テデスキを前にカメラマンを詐称する理由についても同様で、「カメラマンに憧れていた過去を持つ」などの履歴を設定したほうが物語は滑らかに推移するだろうが、この映画は「たまたま『マディソン郡の橋』(仏語吹替え!)を見ていたから」としてしまう。変数にどの値を代入するか、すなわち「(物語の辻褄の上では)何でもよい」中から具体的に何を選択するか、面白さを目指すべき演出・脚本家の見識はまずそこで問われる。
イザベル・ユペールとジュール・ベンシェトリの交感ぶりも好ましい。「物怖じしない年少のベンシェトリと、終始気圧され気味の年嵩ユペール」というふたりの関係性がまず面白いのだが、何やかやがあって終盤のオーディション指南のシーンに至るや、それが率直な感動を伴って迫ってくる。かつてユペールが出演した映画を見るシーンでベンシェトリが狸寝入りするなどというのも愉快だし、それに気色ばむユペールも可愛い。また、演出家とマリー・トランティニャンの間に生まれた子だというベンシェトリは、中性的に整った面立ちの男前というに留まらず、仏頂面を保ったままで画面の質を維持できるという点で立派な「映画俳優」だ。加えて、故障がちのエレベータの扉を容赦なく蹴り上げるインサイドキックのフォームなど、所作にも瞳を惹きつける性質が備わっており、向後の栄達が大いに期待される。
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