『浮雲』の「船」、『乱れる』の「電車」のように、ここでは「タクシー」が主人公司葉子と加山雄三を彼女たちだけの異世界へと誘う。それは甘美な、しかし底なしの泥沼だ。だが司はまさにすんでのところでその泥沼から逃れたように見える。その契機となるのもおそらく「救急車」という名の乗り物だろう。これは切ない切ない「移動」とその「断念」の映画だ。