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[コメント] ベイビー・ドライバー(2017/米)

イヤフォーンの映画。むろん定義次第ではあるが、確かにこれがミュージカルでもあるならば、この映画のミュージカル的特質とは「画面内に音源を持つ現実音だが、観客と主人公にのみ聴こえる」音楽の在り方だろう。私たちとアンセル・エルゴートは「私と彼だけの音楽」を介して共犯的に親密な関係を結ぶ。
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**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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やっぱり画面と音響の一致/同期/適合には抗いがたい原初的快感がある。どうにもミッキーマウシングは絶対的に面白い。だが、映画において音楽はポスト・プロダクションの段階において制作されるのが一般的であるところ、もっぱら既成楽曲を用いることを自らに課しているらしい『ベイビー・ドライバー』にあっては、ミッキーマウシングにかけて画面上のアクションが音楽に隷属せざるを得ない。このあたりに、全面的には与したくない、しかし何やら倒錯的な面白さが顕現する。

主人公カップルのアンセル・エルゴート&リリー・ジェームズ、大看板ケヴィン・スペイシージェイミー・フォックスに負けず劣らずジョン・ハムエイザ・ゴンザレスのキャラクタが彫深く造型されているのは大変好ましい。プロット展開においてハムの変貌ぶり(変貌を強いられる過程)を複線として仕込んだあたりが噺の成功要因としては大きいだろう。

しかしながら、エルゴートのキャラクタ造型の作法は寸法を誤っていたように思う。私の感覚からすれば、彼がのべつ音楽を聴く理由を「耳鳴りを消すため」「音楽が好きだから」とふたつも重ねるのは、どうにも云い訳がましく思える。「音楽などまったく好んでいないが、耳鳴りを消すにはある特定の楽曲を聴かなくてはならないため、やむなく聴いている」もしくは「病的な音楽愛好家ゆえ、生活上の甚だしい不便を被ってでも二六時中聴き続けずにはおれない」のいずれかでじゅうぶんだろう(この際トラウマ関連の挿話はすべて切り捨ててよい)。ただし「録音マニア」という設定は非常に面白いので、これは引き続き活かした上で、むしろもっと本筋に絡めたいところだ。

さて、既成ポップソングの選曲も概ねよかったと思う。とは云え、趣味に走りすぎた選曲がクエンティン・タランティーノのように発掘的でもなければ、『ファンタスティック Mr.FOX』以前のウェス・アンダーソンほど豪胆でもなく、アキ・カウリスマキよろしくローカリズムに立脚したわけでもない以上、常に観客から選曲趣味勝負を挑まれるリスクを抱えることになるだろう。曰く「俺ならカーチェイス・シーンにはズボンズ“Dolf”を採用するのに」「どうせ“Tequila”ならドクター・フィールグッドの(“Bonie Moronie”からの!)“Tequila”のほうが気が利いていたのではないかしら」などと。とっさの思いつきに過ぎないこれが客観的にどれほどの妥当性を持っているかはともかく、そのように思わせる隙を与えてしまう点で、エドガー・ライトの方針はベターではあってもベストには辿り着かない。

(評価:★4)

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