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[コメント] 動くな、死ね、甦れ!(1989/露)

画面の熱。云うまでもなく、それは撮影地の気候などとはまったく関係のない何ものかである。痩せた土の「黒」と雪や吐息の「白」を基調としたこのモノクローム画面は、しかし狂的に熱を帯びて燃え上がっている。「撮影のテンション」「演出の切迫感」などと云い換えてもよいであろうその熱は、適度を遥かに超えて過剰である。
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**ネタバレ注意**
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明らかに同時録音ではない箇所がいくつか確認できるが、全篇がそうなのだろうか。いずれにせよこれは強烈な異化効果を伴った凄まじい「声」の映画だ。ごく単純に云えば、声が役者本人の発したものに聞こえないということ。特に主人公の母親にちょっかいを出す青年の歌声。また唐突に日本語(という登場人物が意味を理解できない異言語)が紛れ込むことからも、カネフスキーが声の音響的側面を重視して演出していたことは明らかだ。幾重にも重ねられたそれらの声は、不協和音という語すら不適当と思われる即物的な異形のポリフォニーを形成する。それら音響のささくれだった混沌こそがカネフスキーの世界把握を象徴しているはずだ。

ところで、この映画は少年が列車で逐電するシーンを境とした(いささか時間的/量的バランスを欠いた)二部構成を取っている。(物語の展開を除けば)あらゆる点で無軌道な第一部だけを見ていると勘違いをしかねないが、第二部においての「光」や「水面」の扱いを見れば、これが決して「映画」を知らぬ人間が出合い頭に撮っ(てしまっ)た傑作などでないことは明らかだろう。カネフスキーの感性は純粋に「映画」を志向している。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (5 人)寒山拾得 けにろん[*] ペペロンチーノ[*] moot ゑぎ[*]

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