[コメント] パーフェクト・ワールド(1993/米)
映画を見終った人むけのレビューです。
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驚くべきことに、この映画において自動車はタイムマシンやローラー・コースターにもなってしまうのだが、それだけではない。洋服店から逃走するときはパトカーと押し相撲をするし、少年の手で暴走させられもする。暴走ということで云えば、イーストウッドたちが乗るトレーラーも暴走し、牽引車と客車が並走した挙句に木と激突することになる。また、ケヴィン・コスナーは検問を突破するためにピクニックに来ていた一家の車に乗せてもらうが、ここでの車内空間の演出も並のものではない。
だが、自動車はこの映画にとって単なる細部にはとどまらない。むしろ自動車はこの映画の中心に位置している。これは自動車をめぐる映画だと云ってもよいだろう。
コスナーはフォード車に拘泥し、彼が夢見る「アラスカ」は自動車で行くことが可能な最も遠い土地だと云うことができる。また、これが最も重要なことだが、コスナーと少年が父子としてあるいは親友として幸福な時間を築くのは自動車の中においてであり、彼らの仲が引き裂かれるのは自動車から限りなく離れた草原のただ中においてなのである。そして少年は自動車ではなくヘリコプターに乗ってその場を去り、コスナーはそこに横たわったまま息を引き取るだろう。彼らの悲劇は自動車から身を引き離したことと結びついている。もし結末部の展開に触れた私たちが涙を流すとすれば、それは「コスナーが死んでしまうから」と云うより「もう二度とコスナーと少年が一緒に自動車に乗れないことが決定的になってしまったから」と云ったほうが正確だろう。彼らは、そして私たちは、あの自動車内における幸福な時間を二度と取り戻すことができないのだ。
「自動車と男と子供、それだけあれば映画はできる」、ここでのイーストウッドはそう云っているかのようである。
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