コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] 大地の子守歌(1976/日)

「行動の強さが一定の値を超えると、却ってその行動動機の詳細は問われずに済む」という映画の不思議を実演した増村流極端ヒロインの極北だろう。「お転婆/じゃじゃ馬」「田舎娘」といったヒロインの類型に過度の暴力性を注入することで、「薄幸」「忍従」的な物語の典型は破綻寸前に追い込まれている。
3819695

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







原田美枝子が暴力を繰り出す場面がことごとく面白く、成瀬巳喜男あらくれ』の高峰秀子の尖鋭化とも云える。あるいは、この原田が「平家の末裔である」という婆の言を真に受けるならば貴種流離譚の一変奏として見ることもでき、流離における高低差の点で溝口健二山椒大夫』『西鶴一代女』の田中絹代と接続する。増村保造による原田の造型は確かに畸形的だが、突然変異的な奇想によるものではなく、あくまでも従前の映画史の延長として生きている。

また、ここで原田を身体的ヒロインに決定づけるアクションとして暴力や駆け回りとともに忘れてならないのは、おちょろ舟の「漕舟」である。自身も女郎である原田が漕舟を買って出ることで「遊郭」「瀬戸内海」といった設定が映画的に消費されることになる。彼女が失明しかけるという展開の衝撃、作劇の有効性も、「それにもかかわらず舟を漕ぐ」という場面を持たなかったならば半減してしまっていただろう。

原田の顔面の造作については「整ってはいても拭いがたき昭和感」などと大上段に構えていたが、セルフ散髪で短髪化した彼女はほとんど二〇一〇年代的な美少女に変貌しているではございませんか。これにはさすがに度肝を抜去される。

(評価:★4)

投票

このコメントを気に入った人達 (4 人)ゑぎ[*] けにろん[*] 寒山拾得[*] ぽんしゅう[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。