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[コメント] レニングラード・カウボーイズ・ゴー・アメリカ(1989/フィンランド=スウェーデン)

アキ・カウリスマキのセンス・オブ・ユーモア。
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重度のシネフィルでもあるカウリスマキの作品には、良くも悪くも多くの先達からの引用や参照が透けて見える。ロベール・ブレッソン小津安二郎がその最たるものだが、他にもジャン=リュック・ゴダールカール・ドライヤーの影響なども垣間見られるし、五〇年代以前のハリウッド映画に負うものも大きいだろう。ジム・ジャームッシュヴィム・ヴェンダース北野武などの同時代作家との共振も認められる。

そのようなカウリスマキにおいて最もオリジナリティに溢れた部分とは、この『レニングラード・カウボーイズ・ゴー・アメリカ』で全面的に発揮されるユーモアの感覚ではないだろうか。まあ、それにしてもルーツを探ろうとすればいくらでもできるのだろうが(最も安直には、「デッドパン演技がもたらす笑いはバスター・キートンに由来する」などというように)、やはりこのユーモアの感覚は実にユニックだ。視覚的な突飛さ。徹底して真面目さを装う不真面目さ。絶妙の間(ま)。不条理を不条理として描かない不条理。登場人物を突き放したカメラの視線。真理を衝くことにも風刺たることにも興味はないと云わんばかりにぶっきらぼうに投げ出されたいいかげんなギャグ(しかし観客に対してはそれを政治的に読む余地を周到に残しており、その周到さときたら腹立たしいほどだ)。

カウリスマキの厳しい映画スタイルは、フィンランドを舞台にした新旧の三部作で顕著なように、厳しい現実をリアリスティックに描くのに実に適している。裏を返せば、厳しい現実をリアリスティックに描く場合以外にそのスタイルを用いるのは不適当である可能性も高い。それにもかかわらずその自身のスタイルを本作のようなナンセンス・コメディにまで無理矢理適用させてしまうこと自体がカウリスマキのユーモアであり、それはやはり唯一無二のものであるように私は思う。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (3 人)DSCH [*] 赤い戦車[*]

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