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[コメント] キートンの結婚狂(1929/米)

果たしてキートンのストーンフェイスとは端的に「笑えるもの」だったのだろうかという根本的な疑問が湧いて出る。キートン・プロダクション時代にはありえなかったほどカメラは被写体との距離を縮め、そこで写し出された彼の「巨大な」無表情にはわざとらしさが纏わりついている。それは笑いとは縁遠い。
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MGM期のキートン映画で笑えない理由のひとつとして「カメラと被写体(主としてキートン)との距離」というのは私の実感の上ではひときわ大きい。むろんMGMがどうこうと云うより、時代の潮流とでもいうべきものなのかもしれない。ここでのアップ/ミディアム/ロングの配分はのちに「古典的ハリウッド・スタイル」と呼ばれるようになるものとほぼ等しく、物語を円滑に進行させることにかけてはまことに力強い。またミディアム・クロースアップによって捉えられたキートンの表情も『キートンのカメラマン』におけるそれはまったく感動的であった。しかし、それが笑いを減退させていることは否めない。キートンが全面的に演出権を握っていた時代に選択されたカメラと被写体の距離はやはり正しかったのだ。どの距離から自らを撮り収めれば最も笑えるかをキートンは知っていたのだ。

以上のことを別にしても、全盛期のキートン主演作と比してギャグの奔放な着想力は著しく衰えている。ただし、一ヶ所だけ大いに笑ったシーンを挙げるならば、泥酔して完全に脱力状態のドロシー・セバスチャンをキートンが何とかベッドに寝かしつけようとするところがそれだ。その過激な脱力ぶりは「ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!!」において松本人志が様々な世界記録に挑戦する企画を彷彿とさす。

(評価:★3)

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