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[コメント] 江分利満氏の優雅な生活(1963/日)

画作りに凝って語り方に凝って。この物語を「効果的に」提示するにはそんなに頑張らないほうがよいのでは? とも思うが、この物語だからこそ頑張らねばならぬのだという岡本喜八の姿勢には感動を覚えぬでもない。
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“Every Man”など所詮は抽象的な観念に過ぎないのだから、細部を描き込めば描き込むほど小林桂樹はそれから懸け離れていく。諸細部が浮かび上がらせるのはあくまで具体的な「平凡な一個人」の姿だろう。また、具体的であるがゆえにその「平凡さ」は多分に時代的に規定される類のもので、この小林が時代を越えた「平凡さ」を獲得しているかどうかは俄かには判定しがたい。しかしながら「映画」にとってはそんなことは取るに足らぬことである。というのは、この映画における細部は実に魅力的なものだからだ。

魅力的な細部。それは東野英治郎の親父ぶりであるとか「百までの勘定が覚束ない」であるとか(特に後者には笑ってしまいました。「百まで数えられない」ってもう平凡以下じゃないですか)。新珠三千代もいい。「なに書くの、恋愛小説? 推理小説?」とやけに嬉しそうに聞いてきたり、玩具の拳銃をくるくる回してみたり。単に私がこういうテンションの女性が好きということもあるけれども、こうした愛すべきキャラクタを持てたことは映画にとって幸福なことだと思う。「小林・新珠・東野、それと息子。この家族の物語だけで全篇通したってよかったのに」、そう思われるのはとりわけ後半部にメッセージを込めた岡本にとっては不本意かもしれないが、この映画にとっては決して不名誉なことではない。

(評価:★4)

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