[コメント] 駅馬車(1939/米)
「駅馬車(乗合型馬車)」とは何か。乗り物である。ではいかなる乗り物か。「駅馬車」という乗り物の特徴的な要素を列挙すると、(1) 乗客の数が六人から八人ほどであること (2) 乗客は基本的に赤の他人同士であること (3) 客車内部はきわめて狭小かつ密室的空間であること (4) 乗客が向かい合って座ること (5) (都市間を結ぶため)運行距離が比較的長いこと となる。以上を鑑みたとき現代において最も「駅馬車」に通じるところのある乗り物と云えるのは「電車」「バス」「タクシー」であるが、「電車」は (1) (3) の点で、「バス」は (3) と多くの場合 (4) の点で、「タクシー」は (1) (4) の点で「駅馬車」と決定的に異なっている。
しかし、それらは「映画」にとってどのような意味を持つのか。それについては次のように云える。「駅馬車」はほとんど偶然によって集合した一定数の赤の他人同士を客車に収めるが(=1,2)、その客車は乗客相互の体が触れ合うほどに狭い密室的空間であり、また乗客同士は向かい合っているために不可避的に(視線の)「ドラマ」が生み出され(=3,4)、そのドラマは一定時間以上維持/展開される(=5)。
その速度感と緊迫感において今なお映画史に屹立しつづけるネイティヴ・アメリカン襲撃シーンが「駅馬車」空間の内部と外部の対立による「外的な」活劇だとするならば、「駅馬車」内では絶えず「内的な」「視線の」活劇が展開されており、フォードはその比類なき空間演出力をもってこの二重の活劇を自在に操っている。
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