[コメント] 浮き雲(1996/フィンランド)
映画を見終った人むけのレビューです。
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『コントラクト・キラー』のジャン=ピエール・レオーは恋に落ちたことで死ぬことを思いとどまる。『過去のない男』のマルック・ペルトラには愛する人がいて、またその人が自分を愛してくれているからこそ、客観的に見れば非常に厳しい現状にあるにもかかわらず希望に溢れている。
誰ひとりとして愛してくれる人がいない『マッチ工場の少女』のカティ・オウティネンの不幸は云うまでもない。愛する妻に去られた『白い花びら』のサカリ・クオスマネンは絶望に陥る。愛を知らない資本家である『ハムレット・ゴーズ・ビジネス』のピルッカ=ペッカ・ペテリウスには悲惨な末路が待っているだろう。
愛こそが幸福であり希望。カウリスマキの云っていることはシンプルきわまりない。カウリスマキ史上最も静かだが確かな愛で結ばれた『浮き雲』のカティ・オウティネンとカリ・ヴァーナネンがカウリスマキ史上最も幸せな結末を迎えるのは、それゆえしごく当然なことである。
ところでこの映画には、オウティネンがアル中コックのマルック・ペルトラを取り押さえる場面をはじめ、登場人物が画面外に視線を注ぐ印象的なカットがいくつかある。その最たるものはもちろん夫婦が並んで空を見上げるあのラストカットだ。夫婦の視線の先にはいったい何があるのだろうか。ただ「浮き雲」があるだけなのだろうか。私には、幼くして亡くした夫婦の息子(写真がさりげなくその存在を示していた)、即ちマッティ・ペロンパーの顔があるように思えてならない。私はこの映画を何度も見ているが、いつも涙が溢れてしまって、あのラストカットをまともに見られた試しがない。
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