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[コメント] ブレードランナー(1982/米)

この映画の感想を一言で表現できないのは、この映画が「箱庭世界」ではなく「世界そのもの」だからだろうか。
サイモン64

リドリー・スコット監督の偉業はあえてその映画名を『エイリアン』だの『ブラックホーク・ダウン』だの『グラディエイター』だのと具体的にいちいち上げるまでもなく、映画ファンなら誰もが知っていることだ。

だがこの映画に関しては、その完成度に対してリアルタイムでの評価が著しく低いように私は感じていた。しかし、1982年に出来たこの映画を2007年の今、DVDで見ながら思ったのは、当時の観客の視点だと既存のSF映画の延長にこの映画を見ざるを得ず、言い換えると持て余しちゃったのかなという気がした。

公開当時の私も雑誌「ポパイ」で原田眞人氏がやたらとこの映画を褒めちぎっていたので、「そんなもんかなあ」と、その先入観を植え付けられたまま観に行き、まあ期待は裏切られることなく確かにすごいことはわかったんだけど、このレビューを書こうとして正直「すごさ」に関して頭の整理が付かないまま現在に至っていたことに今気づいた。そうすると、リアルタイムでの評価が低いこともなんとなく理解できる気がする。やっぱりみんなこの作品がすごすぎて持て余していたのだ。

原作を読んでいないのでそっちの味付けはわからないのだが、映画はオーソドックスにハードボイルドな探偵物語の構成で作られている。主人公のデッガードが何故に「ほぼ人間そのもの」の存在であるレプリカントを捕縛するような業の深い仕事「ブレードランナー」をやっていたのか迄はうかがい知れないが、同じくレプリカントであるレイチェルとは恋に落ちるところから見て、不承不承やってる裏仕事みたいなものなのかなとも想像したりするし、彼の持つ陰鬱な雰囲気は、そんな業の深い仕事ゆえのことかもしれない。

物語はブレードランナーである主人公デッガードが脱走したレプリカント達を追う追跡劇を縦軸に、人間だと思ってたら実はレプリカントだったレイチェルと主人公の恋、「早く人間になりたい」と願うレプリカント達のもがきを交差させて描かれる。物語の舞台になっている近未来のロサンゼルスは暗くてしめっぽいが、全くの絵空事として受け止めることができないのは、その世界観の構築センスが奇跡的に優れていて、なにを作り込み、なにをそのままほったらかしにするかという加減がものすごく良いからだろう。

この映画の良いところは上げだしたらきりがないけど、箱庭のように繊細に作り込まれた空間と言うより、世界そのものが解放されていて、まるで自分までもがすぐ近くで傍観しているかのような錯覚を感じながら物語を味わえるのがこの映画の最大の魅力だと思う。

「完全版」には余分なラストがないため単純手放しなハッピーエンドになっていなくて私はこちらの方が好きだ。

〜〜〜

2010.5.8 ブルーレイのファイナルカット版を鑑賞。オリジナル素材がここまで画質が高かったのかと唖然とさせられ、既存版とは分けて考える必要があると思われた。

(評価:★5)

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