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[コメント] 椿三十郎(2007/日)

三船敏郎の偉大さを改めて認識したが、それは言わない約束だろう。映画は思った以上の出来で楽しく見られたが、評価はぎりぎり☆4。
サイモン64

私の父を含めて戦前・戦中派の大人は、どことなく殺気立った気配を漂わせていたように思う。やはり肉親・友人・知人の死・占領・食糧難といった過酷な経験というのは、人間の精神に相応の影を落としていたのだろう。

そうした時代の雰囲気を宿した人々が演じる刃傷沙汰と、アクが抜けてこざっぱりした現代人の都会人が演じるそれでは、やはり迫力が違うのは避けられないだろう。

また、私にとっての織田裕二は「踊る大捜査線」や「お金がない」でイメージが固定してしまっている。彼は正義感ある清潔な人物でしかなく、ひとくせもふたくせもある人物を演じてもリアリティを感じることができないのである。彼は精一杯癖のある人物を演じてはいるが、虚実の境目が薄く見えてしまうのだ。三船敏郎の場合虚と実の振幅が激しく、「まんまとダマしてやった感」が画面一杯にあふれ出るのだが、織田裕二の場合は今ひとつケレン味が薄く、人々がやすやすとダマされるさまに不自然な感じを覚える。これは豊川悦司も同様で、「抜き身のさやに収まってない刀」というイメージは出し切れていないように感じた。

ただ、当時の三船敏郎も仲代達矢も二人とも不世出の俳優であり、彼らを前提に作られた映画のリメイクにおいて織田裕二や豊川悦司を比較してしまうのは、他のコメンテーター諸氏もお書きのとおり不公平な話だから言ってもせんない(たとえば三船敏郎が現代によみがえって青島刑事を演じても違和感が残るだろう)ことなのだが、やはりこれは書かずにいられないし、この名作をリメイクする以上、この手の批評は避けて通れないことは制作者もよくわかっていると思う。

そういう見る前からある程度わかっているマイナス点を考慮しても、この映画は楽しめる映画に仕上がっていた。やはりストーリーが良くできているというのか、突然三十郎というよそ者が乱入することで事件の大筋を冒頭で上手に説明っぽくなく説明してしまったり、状況を徐々に明らかにする手順など、最後の最後までよくできた話だなと感心しながら見た。

主役の二人はかなり敢闘していたが、松山ケンイチをはじめとする若侍達も実に青く猪突猛進な感じがよく出ていて好感だったし、藤田まことのすっとぼけた狸ぶりや、中村玉緒・鈴木杏親子ののんきな感じ、押し入れに押し込められた佐々木蔵之介のエヘラエヘラした雰囲気がよく出ていた。悪役陣は少々薄かったが。

とはいえ、どうしてもオリジナルの亡霊がちらついて☆はぎりぎりの4という感じ。

あと、ガッツポーズとかスローモーションとか意図がよくわからない部分がすこしあってあれはなんだったのかと今も思う。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (3 人)おーい粗茶[*] sawa:38[*] ぽんしゅう[*]

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