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[コメント] ザ・マジックアワー(2008/日)

星新一的「とある街のお話」にしては妙なリアルが混在していたため、十分話に没頭することが出来なかった。個々のキャラクターには魅力が多々あるため、余計に残念に感じる。
サイモン64

TOHOシネマズ梅田で7/1映画の日に見た。

〜〜〜

前作『有頂天ホテル』では、複数の話を錯綜させながら、最後にきれいにまとめるという構成を取っていた。が、あまりにも「まとめる」という技巧にこだわりすぎたせいか、結局ストーリーは鮮烈な記憶にならず、個々のキャラクターや場面は思い出せても、全体を明確に思い出せないという中途半端な作品に仕上がっていた。

今回は、そうした技巧重視がどの程度克服されているのか楽しみに見に行った。

お話は、やくざの親分(西田敏行)の愛人(深津絵里)に手を出して殺されかけたヤサ男(妻夫木聡)が、命を助ける代わりに殺し屋を探してこいと言われて窮したあげく、売れてない役者(佐藤浩市)をだまして殺し屋を演じさせるものの、当然ながらそんな底の浅い嘘はバレて絶体絶命の中、映画のトリックを駆使して起死回生の大芝居を打つが...というもの。

演技も大してうまくない売れない役者が、殺し屋を演じるという非常に難しい状況を器用に演じている佐藤浩市。 実に魅力的で美しい深津絵里。結構義理に厚い妻夫木聡。妻夫木を献身的に助ける、綾瀬はるかと伊吹吾郎。佐藤浩市の忠実なマネージャー小日向文世。

個々のキャラクターは実に魅力的なのにキャラクターを掘り下げることはせず、それでいて無駄なシーンが多く、また過去の映画の引用やオマージュが多々あって本筋に関係なく、開演30分でものすごく退屈を感じてしまった。

簡単に言うと、個々の要素が全くかみ合ってない。野菜を切って入れるだけ入れたけど、まだ煮立ってもいないシチューの作りかけという感じである。

おそらく星新一のショートショートの抽象化された世界のように、「男」「女」「ギャング」「俳優」という記号化された存在が繰り広げる物語を描きたいのだとは思うし、セットやキャストの多くにおいてそれはうまくいっていると思うのだが、寺島進や戸田恵子、そして香川照之という、妙に現実味や所帯臭さを感じさせる俳優が登場することで、どうにも現実に引き戻されてしまい、この作品のキモである虚構感を楽しむことが出来なくなってしまった。

殺し屋を演じている佐藤浩市と、本物の殺し屋が目の前にいると思っている本物のギャングの面々が交わすセリフのやりとりのすれ違いが産む笑いも見事に上滑りしている。ギャングの面々は時にリアルであり、時に佐藤浩市を見逃してしまうほど間抜けであり、その温度差があり得ないほど開いているために、笑うより前に、ばかばかしいとしか思えなくなるのである。

期待が大きい分、失望が大きくなってしまった格好だが、次回作に期待したいと思う。

(評価:★2)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)なかちょ[*] ぽんしゅう[*]

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