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[コメント] クライマーズ・ハイ(2008/日)

久々に邦画を見て引き込まれた。意図不明なカメラワークとシーン間のつながりに難はあるものの、現場の緊迫感が良く表現されていたと思う。過度にウェットなパートがないのもいい。各エピソードがもう少しクリアに回収できればと少々残念。
サイモン64

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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映画の本筋とは全然関係ないが、この映画を見ながら、一部のJAL関係者は苦々しく思っているだろうなと想像した。山腹に落ちた翼には "JAL" と大書されているのである。せっかく宮崎監督使って『紅の豚』作ったのに、イメージダウンも甚だしいよなと思っている向きも多かろう。

それはさておき、この映画、邦画では久々の佳作と言える。ストーリーの舞台は地方新聞社の編集部だ。彼らの停滞した毎日に突然、単独事故としては史上最大最悪のJAL123墜落事故という大ネタが舞い込んできた。そこで全権デスクに任じられた主人公と、彼に関わる人々が織りなす物語が本編の内容である。

私は原作は読んでいないのだが、映画を見る限り個々の周辺エピソードの回収は中途半端な感じが否めない。主人公自身の物語も、おそらくこうだろうなと想像できるものの、少々もやもや感が晴れないのが実態だ。

画面構成は緩急を付けるべく非常に工夫されているのがわかる。しかし、感情の対立するシーンでめまぐるしくカットをつないだり、カメラの大げさなパンを多用したりと、ちょっとやり過ぎではないのかという気がしてならなかった。映画青年の実験につきあわされているというと言い過ぎかも知れないが、まるでそんな感じがした。この種のテクニックについて詳しいことはわからないが、技巧が前に出すぎるのはどうかと思う。何でも山登りに例える主人公同様、私は何でも料理に例えるのだが、すし職人が包丁自慢に走って素人には訳のわからないレベルで調理することになにか意味はあるだろうか?

シーンとシーンも唐突に「ブツッ!」とつながっているので、どうにも興ざめな感じがある。料理の余韻を味わってるのに、せかせかと皿を全部下げられたような気分がするシーンがいくつもあった。特に、過去の物語に、リアルタイムの山登りがオーバーラップするところで、この種の違和感をものすごく感じてしまった。

主人公に絡む人たちの影が少々薄いこともあって、縦横に織られた糸は、あまり重層感を醸し出すことがないので物語全体の奥行きが生まれず、二次元的になっているところにも少々残念さを感じる。高嶋政宏、主人公の子供時代、主人公の息子、主人公の最後の身の振り方、などなど、個々のエピソードの結末も観客の想像に投げっぱなしの部分があり、この点ももう少し落とし前をくっきりはっきり付けて欲しかったと感じた。

あと、一つ非常に気になったことは、主人公が「セクハラ」という言葉を使っている点だ。1985年当時は「セクハラ」という言葉は市民権を得ていなかったと記憶しているのだが。

〜〜〜

原田監督はかつて1980年代の雑誌「ポパイ」にて辛口映画評論ページを担当していて、当時高校生だった私は、そのコーナーを映画鑑賞の一番の参考にしていたのである。そういう経緯から、彼の作る作品は必ずスグレモノであって欲しいと切に願う私であり、その過度の期待からどうしても細かい部分は批判がましくなってしまったのだが、最近見た邦画の中では久々の佳作であると感じた。

大ネタが飛び込んできた直後の編集部の動揺ぶりや、スクープ前の社内外の動きは思わず身を乗り出して見入らされる迫力があった。

また、全体を通して、邦画にありがちな、妙なウェット感に陥ることもなく、実にあっさりと描写がされている点は、非常にいい。

プライドを持ちながら、そしてちょっと相手に甘えながら、仕事に没頭している自分を演出してそれにおぼれながら、泥臭く直接的な人付き合いをしていた1980年代の空気感が良く再現されていて懐かしく感じるとともに、「仕事をする・与えられた役割を演じる」ということが、どういうことなのかを子供達が肌で感じるには良い教材かも知れないなと思う。(が、私は決してあの日に戻りたいとは思わない。今の少々他人行儀な世の中の方が好きだからだ。)

演出上、もう一つだけ文句を言わせてもらうなら、最初に現地に向かった二人が見た光景は、人体のパーツがあちこちにごろごろと転がった悲惨な状況であったはずで、その点を再現すれば、カメラマンが陥った狂気に、もうすこしリアリティを感じられたはずだ。まあ、それが出来ない理由もなんとなくわかりはするのだが。

〜〜〜

これまた本編とは全然関係ないが、映画の予告編では元ちとせの「蛍星」が、やたらとかかっていたので、きっと映画の最後にかかるんだろうと思っていたら全然かからず肩すかしを食らった。まあ、別にいいけど、あれはイメージ曲だったんだな。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)緑雨[*] けにろん[*]

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