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[コメント] 崖の上のポニョ(2008/日)

現時点で最高峰と思える美しい絵とアニメーション。そして、どこまでも希望と喜びに満ちた物語。だけど全編「死」の匂いに満たされているのは何故なのだろうか?
サイモン64

宮崎駿監督作品と聞くと、なんというか是非見なくてはいけないモノのような気がして、毎回劇場に足を運ぶことを繰り返している。もうそこに『カリオストロ』『トトロ』『ラピュタ』といった、映画史に名を連ねる作品の面影は残ってないことを判っているのに、だ。

今回の『ポニョ』もそうだ。ルパンが駆るフィアットのような車の動き、どこかで見たような強い女性達、「メイ型」キャラ。まるでセルフパロディの様相を呈している。絵は文句の付けようなく美しく、アニメーションは最早ここまでと思われるほどのできあがりだ。これはもう間違いなく現時点最高峰のアニメーション技術だろう。抜けるように鮮やかな色彩をバックに、希望と喜びに満ちた物語が描かれる。だけど、登場人物や海の中は、どういうわけか死の匂いに満ちている。「実は全員死んでいた」と最後に聞かされても違和感がないほど暗いと感じてしまった。『ラピュタ』に登場する滅亡した空中庭園の湖や、『ナウシカ』に登場する腐海が生命に満ちていたのとは、これは全く対照的だ。

察するにというか、かなり前から判っていたことだけど、宮崎監督には、もう作りたい物語は無いんじゃないかという気がしている。最初に挙げた三つの作品の焼き直しなんか、誰だってもうやりたくはないだろう。だって、どれもこれも最高傑作なんだから。

「人間の世界にあこがれて、人間になるために我を貫き通す女の子の物語」は、終盤に行くに従って「で、俺にどうしろって言うわけ?」という突っ込みを止めることが出来なくなってしまった。誰に肩入れして、なにを期待すれば良いのか判らないほど一本道のストーリーになって行ったからだ。あまりにも一本道で予定調和な道行きゆえ却って不安になり、「主人公があの板皮類に食われるんじゃ?」とか「お母さんが車ほっぽり出して林の中で死んでたらどうしよう」とか、あり得ない想像ばかりしてしまった。

「絵はきれいだよね」とか「音楽もすごいよね」とか、細部についてホメどころは多々あるが、全体としてはなかなか微妙な作品だったと思う。

(評価:★4)

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