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[コメント] チェンジリング(2008/米)

クリント・イーストウッドに、またひどい目に遭わされた。こんな底意地の悪い視線を投げかける監督というのは、全く私の趣味ではない。でも、映画自体はよく構成されていると思うので中間の☆3。
サイモン64

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







2009.2.24 TOHOシネマズ梅田でレイトショー鑑賞。最後尾の通路側が取れたので喜んでいたら、一つあいて左隣に妙に存在感のある中肉中背の男性が座って妙な雰囲気を放ち、目の前の席には座高が高くて白い服を着た女性が座ってもぞもぞ動いて気になるし、鑑賞前に食ったファーストキッチンのバーガーが良くなかったのか、昼に食った激辛カレーが良くなかったのか、どうもお腹がしくしく痛む。という悪い環境で見たのだが、映画自体はなかなか面白かった。

〜〜〜

クリント・イーストウッド監督の前作『ミリオンダラー・ベイビー』を見て、ことさらにひたすらに人生の影の部分に焦点を当てるその底意地の悪い視点に辟易した私ではあるが、性懲りもなく本作『チェンジリング』を見に行ってしまった。

主演のアンジョリーナ・ジョリーは、新聞広告を見て初めて気付いたくらいで、だいぶんイメージを変えての登場だ。

静かなオープニングから最後まで常に不吉な予感に満たされたこの映画は、見ているだけでパニックを起こしそうになるほどの閉塞感を感じさせる。

行方不明の息子、置き去りにされた浮浪者の子供、突然帰ってきた息子への違和感、牧場の捜索、などなど出来事と出来事をつなぐポイントは非常にわかりやすく配置されているのだが、カメラの視点は終始冷徹に彼女の出会う逆境を描き続け、それがたまらない苦しさを見る者にもたらす。

この映画、真にヒロインの味方と言える者は一人もいない。敵である警察関係者は「偽物の息子を息子だと思え」と強制し、味方に見える教会関係者は「息子さんはもう無くなったことを認めましょう」と強制してくる。どっちにせよ、「息子は生きている」と思っている彼女のために本気で助けてくれる人はこの物語には誰も登場しない。

また、彼女を訪れる出来事は、いずれも残酷なまでに不幸なシチュエーションの連続だ。その最たるものが終盤の「主人公の息子に助けられた少年が後日救出されるが、肝心の息子の行方やその後はようとして知れず」という出来事で、全く悪意としか思えないようなカメラワークで彼女の表情を淡々ととらえて行く。

この映画、裁かれる者はそれなりに裁かれ全部一件落着みたいに見えるが、主人公の心の中は全く整理が付いていない状態であるばかりか、整理されかかったところをぶちこわすような出来事が発生してしまう。

正直なところ、あまり楽しい映画だとは思えない。映画自体の作りは非常にわかりやすくて丁寧で良いと思うのだが、この監督が持つ特有の意地悪な視線のあり方が非常に残念だ。

〜〜〜 2009.3.1の追記:

その後この映画について考えたことがあるので追記。この映画の背景には変態殺人鬼ゴードン・ノースコットの物語があるわけだが、映画の終盤でゴードンは悪あがきを繰り返したあげく絞首刑で殺されてしまうのである。当時の死刑は一般公開もしていたのか、被害者の母も現場に立ち会ったりしている。

彼が犯した罪の重さ(適当に少年をさらってきて、己が異常性愛の対象にしたばかりか、同様の嗜好を持つ変態にも「貸し出し」、飽きたら殺して埋めるということを何十人繰り返した)を考えると、絞首刑でも軽すぎるくらいだと思うが、少なくとも命を奪うくらいしないと被害者家族も浮かばれないよなと思った。

この映画は女性の地位向上とか、精神医学上の落とし穴とか、いろいろな問題を内包しているが、死刑是非論に関する一つのメッセージになっており、興味深い。

(評価:★3)

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