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[コメント] インビクタス 負けざる者たち(2009/米)

古いニュースフィルムを見ているようなデジタル処理がすごいとか、変なところに感心してしまった。この映画が描いて見せた希望は素晴らしいものではあるが、しかしあの国の現在の姿を思うと、複雑な気分でもある。
サイモン64

2010.3.2 TOHOシネマズ梅田で鑑賞。この日は火曜日でTOHOシネマズ会員デーだっためか、結構な入りの劇場だった。鷹の爪団のムービーはもうちょっと長くならないのか、と思いながらも、紙兎ロペの先輩リスのほっぺたネタは面白く、ますます快調である。

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最近立て続けにヒットを放っているクリント・イーストウッド監督であるが、今作は彼の作品中最高峰であると感じた。(もちろん今のところ最高峰)あらゆる映画の中でも佳作の部類ではあろう。(ただ、私はこれが不朽の名作かどうかは微妙な所だとは思っている。理由は後述。)

上品で丁寧なカメラワークに、絶妙のキャスト。そして、野球とアメフトしか興味ないのかと思ってたら、監督はちゃんとラグビーの楽しみ方もよくわかってる上、わかりにくいルールなんかはすっ飛ばしてる試合描写が異常に上手い。なにより、当時のニュースフィルムにしか見えないデジタル映像処理にはびっくりしてしまったが、そんな変なところに感心する自分が面白い。

作品はネルソン・マンデラが釈放され、大統領となり、アパルトヘイトが突然撤廃された直後から、一年後のラグビーワールドカップでの南アフリカチーム優勝までを描いている。

アパルトヘイトは有色人種である我々日本人にとっても非常に悪辣で深刻な唾棄すべき政策ではあった。しかし、長年のアパルトヘイトの結果作り出された無知と貧困の絶望的格差が、ある日突然無条件に開放された結果、南アフリカがどんな混乱を経て、現状もなお混乱から抜け出せないままであるかを観客である我々は良く知っているだけに、この映画が見せる栄光とは裏腹な不安が常に付きまとう感じがした。

アパルトヘイトと言えばもうひとつ、私は反射的にスティービー・ワンダーの "It's wrong." という歌を思い出してしまうのだが、彼の歌う軽やかで昇華されたイメージとは異なり、この監督は、ベッタリと人種間の激しい落差感を描き出して見せる。その最も象徴的な部分が、マンデラをはじめとする黒人たちが話す英語に現れている。それは非常にキツイ訛りで、英語ベタで有名な日本人が聞いても、いかにも洗練されていないことがはっきりわかるような英語だ。大統領の取り巻きも、できればお近付きにはなりたくないような、明らかにガラの悪い雰囲気が漂っているが、これは長年の不幸な歴史の結果もたらされたものであり、本人の責任以外の部分が極端に大きい気がする。

日本では自民党と民主党が政権交代したとか騒ぎになっているが、こんなもん南アフリカの黒人政権発足の前では屁でもないような変革なのである。所詮は同じ日本人同士である。いくら鳩山首相が気に入らないっつったって、人種が違うわけでもなく、大した違いはないのである。むしろ首相は東大出てたりするくらいなのである。一方、この当時の南アフリカでは国家のほとんどの富を握る少数派の白人が、生理的に新大統領を拒絶している一方、数の上では圧倒的な黒人たちに大して激しい恐怖感をいだいている状況なのである。

この非常に悪い雰囲気を、監督はごく短い描写で描き出してみせるが、これがものすごく上手い。大統領が初出勤したオフィスで白人たちが見せる気まずい雰囲気も見事だし、大統領のボディガードを務める黒人たちと、いかにも毛並みの良い白人警官たちの対比が言いようの無い気まずさを醸し出している。この最悪の状態から、終盤で国民の精神的結束を得るまでに、ごくわずかな登場人物の表情や言葉を通して、小さい変化を積み重ねて最後に圧倒的な感動を産む技がすごい。あきらかにそういう手法だとわかっていても、やはりすごい。

しかし、現実に視線を戻すと、この映画の十数年後に南アフリカが陥っている状況(そりゃソマリアやジンバブエやスーダンよりはマシだが)を我々観客は知っているだけに、映画で描かれた部分もやはり少々綺麗事めいて見えてしまう部分はある。

とまあ、いろいろ考えさせてくれる映画だが、最近ここまで考えさせてくれる映画もなかなかなかったと思う。娯楽要素がありながらも、落ち着いた素晴らしい映画的映像を堪能できるとともに、人類を取り巻く様々な問題に思い至ることができる価値ある映画だ。

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大統領の娘役の女優はどっかで見た顔だと思ったら、『星の王子ニューヨークへ行く』の女王エオリオン役の人だった。

(評価:★5)

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