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[コメント] プレシャス(2009/米)

見ていること自体がものすごく苦しい。プレシャスが無意識のうちに逃げ込む妄想がなければ、観客もまた最後まで耐えきれないだろう。「辛かった」と語る彼女を見ていることが辛いできごとだ。上っ面の感動ではなく、未来への希望を見事な構成で伝えてくれる。選曲も素晴らしくセンス良くまとまっている。
サイモン64

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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2010.5.25 TOHOシネマズ梅田で鑑賞。シアター5は、B列中央がなかなか狙い目。「ビデオ男」のクリップが昔のそれに戻っていた。新作に登場していた女性の、あのわざとらしい演技や表情に何か問題でも有ったのだろうか?相変わらずギフトムービーの「紙兎ロペ」は楽しいが、最近鷹の爪の新作が出てこないのが残念。

〜〜〜

のっけから母親の激しい「口撃」が実の娘に浴びせられる。その内容のすさまじさには驚くが、娘は終始ふてぶてしく無表情である。しかしそれは長らく虐待を受けてきた者の自己防衛であり、その無表情の奥にはごく普通の感情があり、耐えきれない状況に出会うと無意識に妄想の世界に逃げ込む。そのことが様々なカットを織り交ぜて描かれるうちに、それをスクリーンのこちら側で傍観している事自体がものすごい苦痛に思えてくる。冒頭10分の苦しさは未だかつてない体験だ。

実の父にレイプされて妊娠する。しかも二人目!?ハァ?さらに母親は「自分の男を横取りした泥棒猫」として実の娘を憎んでいる。

「家庭という名の牢獄」は時として巧妙な「虐待の温床」になりがちで、ここでもそういった状況が描かれる。ただ、この監督のセンスの良さは、いたずらに感傷をあおらないところにある。

主人公プレシャスが妊娠発覚後に学校を追い出されて "Each One Teach One (EOTO)" という代替学校に行き、徐々に自分の存在を表現することを覚えていく下りが秀逸だ。

この映画には男性がほとんど登場しない。これは意図的な演出だと思うが、それが特に違和感なく非常に良い味付けになっている。使われている音楽も最初から最後まで素晴らしくセンス良くまとまっていて楽しかった。

終盤自らの体験を「辛かった」と語る彼女を見ていると、本当に辛くなってくる。ジャバ・ザ・ハットみたいに憎たらしい実の母親もまた精神的な袋小路に追い詰められていたことがわかるが、プレシャスが独立の道を進むことでカタルシスがもたらされる。

非常に苦しい状況にあっても、希望を失わない彼女と、それを支える周囲の人達の存在がこの映画の救いではあるが、上っ面の軽い感動表現で終わらない真実味のある映画である。

視聴体験自体が辛く苦しいことであるが、ここにはかつてない映画的感動があると思う。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)セント[*] 水那岐[*]

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