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[コメント] 十三人の刺客(2010/日)

日本映画でもここまで面白く作れることに感心したが、女性と子供に対する残酷描写がひどすぎるので大きく減点。
サイモン64

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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間違いなく時代劇の傑作であり、日本映画でもここまで面白く作れると言うことに大変感激した。

しかしながら、冒頭の女性と子供に対する残酷描写がひどすぎて受け入れられない部分があり、かなり総合評価は落ちてしまった。

ここまで直接的に描かなくとも、劇中殺されるそいつが生きるに値しない人間であることは容易に描写できるはずだ。ブライアン・デ・パルマは、『アンタッチャブル』において、実際の少女の遺体を描写することなく、ロバート・デ・ニーロ扮するアル・カポネが一切同情に値しない人物であることを冒頭の数分で描いて見せた。フランシス・フォード・コッポラは、『ゴッドファーザー Part2』で、ドン・ファヌッチの命が虫けらのそれにも値しないほど軽く描いて見せた。ドン・ファヌッチはカメラの前で何ら犯罪を犯していないにもかかわらず、だ。

あまりにエロ・グロな描写は映画そのものの本質的な魅力を減退させてしまっていてマイナス効果だ。

稲垣吾郎演じる悪辣非道の暴君像は、直接的な描写によって確かにわかりはするけれども、もっと効果的な描写の方法はないものかと思う。

映画全体は非常に魅力的なので、その点がとても残念だ。

個々の配役はとてもいいと思う。元々時代劇での評価が高かった役所広司は主役としての貫禄十分だし、松方弘樹も異常なほどにテンションが上がっていて監督も扱いづらかったのではと想像されておかしい。伊原剛志の居合いも堂に入っているし、古田新太も気合いが入っている。なにより山田孝之の立ち姿の良さはほれぼれするほどだが、彼の人相はさいとうたかおの劇画の登場人物に酷似しており、今からでも遅くないから彼をサトルにして劇画「サバイバル」を実写映画化したいくらいである。ジャニーズにしては珍しく映画公式サイトで写真を使っている稲垣吾郎もなかなかの怪演ぶりである。松本幸四郎も、平幹二郎も、この人でなければ不可能と思える演技を見せてくれる。

三流俳優が思わぬ出番を与えられて、そろいも揃って気味の悪いテンションの演技を繰り広げる「龍馬伝」と異なり、この映画では登場人物全員からものすごい気合いを感じる。

ただ、岸辺一徳の扱いと伊勢谷友介の人物造形に中途半端なものを感じてしまう。岸辺一徳の役を平幹二郎がやっても現実とオーバーラップして面白かったのではないかなどと妄想してしまった。

見せ場の殺陣は終始圧巻であるが、突如長時間消えてしまう山田孝之とか、「この主君に守る価値ありやなしや」と迷っても良いはずの市村正親が、あまりそのようなそぶりを見せないのも少々つっこみ所ではある。

全体として生まれる時代を間違ってしまい、剣の力を持て余している人々が死に場所を探しているという体ではあるが、最近ドラマでも映画でもなんとなく、こうした血なまぐささが増していると感じる。日本人全体が長引く不況や迷走する政権に対するマグマを沸騰させつつあるような雰囲気が社会全体に漂っているが、日本人というのは我慢の限界に達すると突然凶暴になるので、為政者はチャウシェスクみたいになりたくなかったら、もっと真剣味を持って事に当たるべきであろうと思う。(2010.10.6)

(評価:★3)

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