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[コメント] アメリカン・スナイパー(2014/米)

非常に重い物語である。だが、この物足りなさは何かと考える。
サイモン64

伝説のスナイパーの物語である。2000メートル近い遠距離射撃をも一発で決め、もうあまりの腕前に味方からも「伝説野郎」などと疎まれてしまうこともある男の話だ。

だが伝説のスナイパーと言えども血の通った人間。撃つ相手は単なる兵士のみならず、女子供まで手にかけなければならない。実戦、それもゲリラ戦というのはこういう過酷さをはらんでいるのだという描写がこれでもかとなされる。

それでもなんだろうか、全ての描写が表面的でなにもかも掘り下げられていない様な浅さと、そこから来る違和感が全編を通じて迫ってくる。

主演のブラッドリー・クーパーは「ザ・優男」のイメージを払拭し、自らの肉体を大幅に改造して本作に望んでいるし、監督のクリント・イーストウッドは言わずと知れた職人的映画人(えいがびと)であるが、繰り返されるメッセージは「暴力に暴力で報いても、ただそこには恨みが引き起こす永遠の負の連鎖しかないのだ」という、この手の内省的アメリカ史の映画で語りつくされた事項であって、それに蝕まれる主人公や周囲の人々の物語を延々と見せられても、安全な場所から悲惨の現場を意地悪く垣間見るような、例のイーストウッド監督の視点がいつにもまして表面的描写にとどまっているような虚しさを感じる。

絶対的な正義の不在について、いやというほど身にしみて感じざるを得ない今日の我々にとって、この映画が与えるのはそうした事実の追認であって、それ以上の体験ではない。

本作はもちろん凡百の戦争映画を超える秀作ではあるが、イーストウッド監督にはどうしてもそれ以上のものを求めてしまうため、感想が辛くならざるを得ないのが残念だ。

(評価:★3)

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