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[コメント] 羊たちの沈黙(1991/米)

クラリスの訓練譚。
たかひこ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







芸術の役割を昔の人は異化作用などといったりもしたが、なかなかつかみ所のないこの言葉は、見慣れたものを見慣れないものとして、あるいは、見慣れないものを見慣れたものとして見ることを可能にする、新しい視点を獲得する作用ということに関わっている。そのような意味で、芸術とはいわば知覚の訓練である。

作品の冒頭はクラリスの肉体的訓練の描写から始まっている。その後もクラリスの訓練は続く。というか、ほとんど訓練しかしていないとも考えられる。腐乱死体の検視も蛾のさなぎの解剖も、動物的な感性を克服し科学的な視点を養うためだ。サイコに学んだのも、それと同じではないだろうか。サイコは常識とかけ離れた関心で行動できる。そういう意味では、常識にしばられた人たちより圧倒的に強者だ。目的が反社会的だというだけである。事件の解決は、異常性に塗り固められた犯人像のなかに、「普段見ているものを欲しがる」というごく平凡な姿を発見するときである。すべてがクラリスの訓練のように見える。

羊たちが殺されるのが嫌だったクラリス。それは暗視スコープで覗いたときの、闇の中で宙を探る恐怖に満ちたクラリスの姿そのものだ。圧倒的弱者だった自分。生きるために必要だと知りながら、血みどろの世界をがむしゃらに拒絶した。でも、今度こそは負けたくなかった。対象から視線を逸らさず、グロテスクな現実と戦いたかった。そんな思いが、クラリスに銃を撃たせたのではないか。

(評価:★4)

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