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[コメント] スペースバンパイア(1985/英)

生命の美と儚さと不気味さ
山ちゃん

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 吸精鬼は、秩序あるヒト(生命体)から生命力を奪いとり、生命力を蓄積する。生命力の蓄積により、彼らは、己の秩序を維持し、生命体の宿命とでも言うべき無秩序化(死)を免れる。そして、その犠牲として、生命力を奪われた他の生命体は己の秩序が破壊される。故に彼ら吸精鬼は、外界を無秩序(カオス)へと導く邪悪な存在である。とは言うものの、彼らは地球への侵略を企むような侵略者ではない。ただ生命力を他の生命体から奪うのみである。そして、彼らは生命力の補充を終えると、カオスと化した外界から遮蔽するようにクリスタルケースの中で眠り続け永遠に生命を維持する。さらに、彼らを乗せた宇宙船は、新たな生命力を求めるかのように宇宙空間を漂流する。

 このような吸精鬼を通じ、まず、カオスの中の秩序という生命の神秘というべき美とその儚さを感じる。すなわち、まず、宇宙船内のコウモリの無残な死骸が散見されるカオス空間に構築されたクリスタルケースとその中に眠る美しき全裸という光景にカオスの中の秩序ある生命の美が見出される。その一方で、吸精鬼は、莫大な生命力を内に秘めながらも、串刺し一つであっさりと死んでしまうという脆さも露見する。このような秩序ある生命体の脆さは、ヒトにも通じるものであり、そこから生命体の儚さのようなものが感じられる。

 さらに、このような吸精鬼の生態系を通じ、生命の実体的な不気味さも感じられる。ラストシーンで、彼ら吸精鬼を乗せた宇宙船は、ヒトから奪い取った生命力を集積し、その後、新たな生命力を求め宇宙空間を漂流する。生命力を蓄積しつくしてもその先に何があるというわけでもない。ただ彼らは、生命を永遠に維持するのである。生命を維持するために生命力を奪い蓄積するというその吸精鬼の無限サイクル的な生態系は、生命の実体をついているかのようであり、不気味である。

(評価:★4)

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