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[コメント] ロープ(1948/米)

さして面白くない映画であるが、技法の研究用として一見の価値はある。長回しで有名な作品だが、むしろカットを割ることがどのような効果を生むのか、それを学術的に考察する上で非常に勉強になるのだ。私が観たバージョンは、クローズアップによる繋ぎ(つまり、「カットを割った」と観客に思わせたくない繋ぎ方)を除くと、5回はっきりとカットを割っていた。
赤い戦車

まずOPから映画本編の始まりにかけて。まあ、これは特に考察する必要もないだろう。映画本編の始まりの宣言に過ぎない。

続いて、19分過ぎにジョアン・チャンドラーが部屋に入ってくる際にカットが割られる。女優の登場場面は特別扱いということだろうか。それには私も同意したいところ。

3度目は鶏の話をしていてジョン・ドールが大声を上げた際、ジェームズ・スチュワートにカメラが切り返される。長回しの最中にあえてカットを割ることによって、スチュワートが持った軽い違和感を観客にも味わわせる効果を生んでいる。賢い選択だと思う。

4度目は50分過ぎ、メイドが「電話だ」と声をかけてくる部分。メイドが死体の入った机の上の燭台やシーツを片付けていくシーンがその後続くので、このサスペンスを引き立たせるためのカットだろうか。ここは実にヒッチ的な構図の画面で楽しい。

5度目は終盤、どのように殺人が行われたかスチュワートが推理し、『レベッカ』的に無人のピアノや椅子が捉えられていくシーン。死体の隠された机が映されたところにオフからファーリー・グレンジャーが歩み寄ってくる。彼がポケットに手を突っ込んでいる。中身は観客も知っている通り拳銃だ。そして、そこからスチュワートのバストショットへと繋がれる。恐らくこれは、スチュワートの視線を映すことで、「ポケットに手を突っ込んでいる」ということを強調し、また、スチュワートがそれに勘付いたということを観客に示し、画面にサスペンスを生み出そうとしているのではないか。ここは3度目のカットほど効を奏しているとは思わないが、それでも十分理解できるつなぎ方だ。

さて、ここまでカットについての考察を続けてきたが、それでは逆に「1ショット」であることの効果が最も感じられる部分はどこであろうか。私が思うに、クライマックスの銃声の演出とカメラワークだ。オフから立ち上っていく喧騒とサイレン、その時間経過の妙。段々引いていくカメラとスチュワートの後ろ姿。ヒッチコックは技法の適切な使い方を心得ている。

(評価:★3)

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