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[コメント] ラブ・アゲイン(2011/米)

スティーブ・カレルジュリアン・ムーアがフレームによって引き離され、再び同一画面に収まるまでの映画。ラストでムーアがさりげなく右側からフレームインしてカレルの横に立つカットが素晴らしい。電話でも会話でも頑なに二者を隔てていた内側からの切返しが横並びになる画面の後、やっと外側からの自然な切返しになる。しかもそれが夫婦の息子のミタメとして撮られている。涙が溢れてくる、これこそ映画の演出だ。
赤い戦車

厳密にいえば教師との面談シーンでこの夫婦は同一画面上に収まるが、二人の空間を隔てた距離が画面上に存在しているし、この場面は一度夫妻が和解寸前になるのだから同一ショット内に配置しても演出的一貫性に欠けるようなことはない。そもそも最後の場面はそれまでは無かった「フレームイン」という運動が介在することで画面の豊饒さを引き立てている。

画面から引き起こされる笑い、視覚的な説明も秀逸。冒頭の靴のショットの連鎖だけでカレルの人となりをなんとなく説明してしまう手腕は、くだらない引用でヒッチコックを気取ったつもりになっている凡百の演出家より、遥かにヒッチコックの精神的理念を理解している。ケヴィン・ベーコンジョナ・ボボが対面する場面での椅子、写真の使い方(写真を立てる音が大きめに聞こえるのも良い)。ライアン・ゴズリングのポーズはそのままで背景だけをロッカールームからサウナに変えてしまう繋ぎの面白さ。黄金時代のコメディのように偶然の出会いが連鎖する脚本の上手さ。本作にはアメリカ映画の英知が詰まっている。

繋ぎの面白さと言えば、カレルがムーアに離婚を切り出されて帰宅し、ジョナ・ボボアナリー・ティプトンらに対面する場面のカット割りが凄まじい。イマジナリー・ラインなど存在しないかのように振る舞うショット群。冒頭に述べたような「フレーム」や「視点」の演出など、この監督には映画の規範や映画そのものに対する問題意識があることを伺わせる。単に物語を破綻なく語るだけでない、随所にこういった視覚的な仕掛けを施し、観る者を楽しませ、映画とはいったい何モノであるのか探求すること。その達成が見事である。

断言しよう、これは紛れもなくここ数年のラブコメでもトップクラスの傑作だ。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)ペンクロフ[*]

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