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[コメント] ラヴ・ストリームス(1984/米)

それまでの集大成であることに異論はない。しかしこれだけの傑作を作っておきながら、カサヴェテスの演出にはまだ底を見せきっていない部分があるのが恐ろしい。あと10年生きていればどれほどの激震を映画界に与えたか。彼は映画の真理に近づきすぎたがため、イカロスのように墜落死してしまったのだろう。
赤い戦車

例えば車が宙を飛ぶスローモーションや子供を追いかける際のスムーズな移動撮影はどうだ。『グロリア』には反応しなかった私の鈍い観察力でも、ここでのアクション演出の巧さには感心する。カサヴェテスは娯楽映画を撮っても素晴らしいものを作ったであろう。

また、夢と現実が入り混じる構成は『オープニング・ナイト』にもあったが、本作ではその匙加減が更に精妙化されており全く弛緩することがない。カサヴェテスは将来リンチブニュエルにも匹敵する不条理映画を作ったかもしれない。

加えて、終盤のバレエシーンの信じ難い美しさを見てみるがいい。これほど優れた場面を作ることができる監督のフィルモグラフィに、唯の一つもミュージカルが無いとは口惜しい。我々は『チャイニーズ・ブッキーを殺した男』の寸劇を観て我慢するほかないのだ。

確かにそれまでの集大成的な面は多分にあるし、これが大傑作であることに異論はない。しかし、彼の到達点とは全く思わない。今後この映画を観る度に、カサヴェテスの死によって失われた傑作群に、思いを馳せるだろう。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)ゑぎ[*]

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