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[コメント] こおろぎ(2006/日)

かつての青山真治はこれ程までに面白かったのだ。
赤い戦車

目が見えないので光を触覚で感知しようとする男、とも捉えられる映画だが1シーン1シーンを混沌に陥れるあらゆるノイズがすべて面白い。青山真治の作品中でも別格のふてぶてしさと思う。

冒頭のアイリスイン・アウトから一瞬のラストショット迄予測を裏切り続ける、言い換えれば意味不明さを恐れない図太い演出が続く。ジャンプカットで突然時空が飛ぶ様、とある事故ショット、最初の漁港のシーンでのカメラが横移動し始める瞬間、或いは鈴木京香宅の坂道での高低差、安藤政信が猟銃を構えて山間からこちらに向ける(このカメラの動きも安藤政信初登場ショットの反復)、兎にも角にも驚きに満ちている。お話よりも1シーンの強さで紡いでいくのは誰にでもできる芸当ではない。

本作を観ると、北野武、黒沢清、青山真治らの新作が毎年のように公開され、どれも面白い、そんなエキサイティングな時代がほんの10数年前まで確かに存在したことを思い出させる。故たむらまさき氏(『ドライブイン蒲生』の公開時に一度お話させていただいたが、何とも好々爺であった)の見事な撮影も含め、2006年の喪われた過去へひと時戻らせてくれる不思議な味わいは何とも映画の雰囲気に相応しいではないか。

(評価:★4)

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