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[コメント] バード(1988/米)

パーカーが創始者の一人となった「ビパップ」とは一つの主題に基づき、コードに沿いながらも複雑な即興演奏を繰り返していくもの。そこでイーストウッドは大胆不敵なことに映画自体の構成をもビバップになぞらえ、まるで迷宮のように入り組ませているのだ。その作家的野心。
赤い戦車

1つの場面からいくつかの場面へ飛び、それが終わり最初の場面に戻るとまた違う場面へと飛ぶ。パーカーが死ぬ際に見る走馬灯。あれは映画(楽曲)のフィナーレにふさわしく、主要人物(楽器)を揃わせるためでもあるのだ。

また、即興演奏とは瞬間瞬間の響きの移り変わりを楽しむものであり、観客も「耳」で必死に食らいついていかねばならない。畢竟、本作も1ショット1ショットの瞬間の移り変わりを、「思考」するよりも先に眼で「観る」ことが必要とされている。光と闇に彩られた各空間の美しさには見惚れる。

余談であるが、私はビバップ含めあまりジャズが好みではない(逆に好きなのはマーラー、ドビュッシー以降の後期ロマン派〜現代音楽とニューウェーヴ・パンク及びその先駆や影響下にあるもの)。それはいくら音が派手でも、あくまでジャズの範疇には収まっておこうというある種の制度的「大人しさ」があり、それに苛立つからである。しかし、マイルス・デイビスの60年代後期から70年代前半までの時期(Bitches brew、A tribute to Jack Johnson etc.)など、そういった限界を打ち破ろうとする試みは実に凶暴で興味深く、面白いと思う。ジャンルを問わず、制度を克服しようとする挑戦はいつまでも古びない。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)3819695[*] ゑぎ[*]

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