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[コメント] 恐怖のメロディ(1971/米)

初監督作の気負いがバランスを欠いていて粗いSO-SO作品
junojuna

 ほとんどホラーであるが最終的にフィジカル寄りな映画に結んでしまったところが残念な作品である。これがもっとサイコなホラーというよりもサイコサスペンス度の高いテンションの映画としていればより恐怖は奥行きの深いものとなっていただろう。最近のイーストウッド作品を見た上でこのデヴュー作を振り返ると、やはり自らを被写体にするということを非常に意識したセルフプロデュース志向の高い創作であることが分かる。もっとも主人公に据えるわけなのでそうした格好になるのも無理ないが、今後のジャンル映画ヘの挑戦を思えば、本作の気負いはいかに映画偏差値の高い器用な才能を持った俳優なのかをアピールする野心作であることを伺わせる。『グラン・トリノ』で俳優引退宣言をしたことと通ずる意味でイーストウッドのセルフプロデュースの「役探し」はここから始まったのだ。そうしたマルパソプロの第一打が非アクション映画で、翌年に製作される『荒野のストレンジャー』が出世出自の西部劇であることが本作の晦渋を匂わせもする。しかしフィルモグラフィ=作家論の系譜にならって言えば、本作の出来栄えに対する自己総括が後に豊かに実る結果となった。あくまで一般評価においてだが。それでもこの飽くなき挑戦の第一歩を決定付けた本作は、映画の本質を語るよりもイーストウッドの本質を語る上で価値がある。それは映画史内史実としてのエポックヴァリューである。

(評価:★3)

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