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[コメント] シャッターアイランド(2010/米)

映画のトリックだけではなく、スコセッシ映画の本懐である「贖罪」を老練な術中の中に見るべきSO-SOなミステリー
junojuna

 マーティン・スコセッシの意欲は垣間見える「観客だまし」系映画である。『スティング』や『シックス・センス』、『ユージュアル・サスペクツ』などの系譜だ。しかし、何故スコセッシがこうした映画に手を染めたのか。映画への偏愛がこうしたフィルモグラフィを数えさせることの遊びという余裕であるのか。出来栄えはやはりスコセッシの柄じゃないような気がする。しかし、この映画が「ロボトミー手術」に対する批判的視点であるのと、「暴力性」もまた「人間性」であることの苦しみを、スコセッシの映画テーマである「贖罪」に収斂していいく形での語り口は、彼の独特が弛まず裏打ちされており紛うことなくスコセッシ映画になっている。その点ではやはり巨匠の仕事であったと言いたい。また、ディカプリオの前半に見せる大袈裟な演技は、ドラマ要請上の演技内演技であったことを十分に納得させる徹底的な役作りであった。至難の技を見せながらこの映画のミステリーを生むのに一役買っていることは認めるべき所業である。そう考えれば、この映画があくまでスコセッシの術中の中で遊ばれていることが容易に見て取れる。この種の映画として見る時の仕上がり満足度は別に置いて、スコセッシがトリッキーな装いでもって映画を揺さぶろうとしている老練な匠は、映画が見世物的な産業の構造にあることを充分に理解した上での遊戯性にあることで昇華されている。大袈裟に見えるものはすべて、虚飾として、本編に内在するテーマをムードとして象徴的に演出している点が、世界観の外在的な記号として顕わになっており、その作為ひとつをとっても納得の仕掛けなのである。スコセッシほどの人が映画で遊んでくれると、映画がより面白くなるんじゃないかという期待を抱かざるを得ない。時には戯れも必要だ。老いてなお盛ん。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)Orpheus けにろん[*]

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