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[コメント] 海炭市叙景(2010/日)

淡々としすぎている。絶妙な物語装置を活かしきれなかったドラマツルギーの薄弱を思うにSO-SO
junojuna

さすが帯広出身の熊切和嘉、北海道の裏寂れた路地の雰囲気を描写するのにリアルな感慨を持って画面に施した。私自身北海道出身ということもあり、冬の街寂れの空気感に既視感を持って懐かしさが漂って見心地がよかった。しかし、ドラマはどうだろう、どこか雰囲気描写のこだわりだけに終わってしまった感が否めない。あさま山荘事件を思わせる学生運動を戯画化して見せた『鬼畜大宴会』で鮮烈にデビューした熊切なら、この原作を原作の通りに群像エピソード劇で描かずに、人間とどうしようもなく寂れた港町のやりきれなさを、よりディープに克明な人間ドラマとして描いて欲しかった。いや、しかし、実は熊切にそうした才は今のところ見い出せない。唯一彼のオリジナルビデオ作品『冬の花火編〜妹の手料理』で見せた貧しく哀れ過ぎる青年の近親相姦劇には濃密なドラマツルギーの萌芽があったが、以降のフィルモグラフィにはそうした魅力の芽は見られなくなってしまった。実に残念であったが、この『海炭市叙景』には物語の背景となる寂れた港町という絶妙な装置を用意して、いよいよ熊切ドラマのブレイクなるかと思いきや、先に言った通り、群像エピソード劇で人間ドラマを希釈してしまってことさら残念でならない。はじめからあの寂れた風景の中に溶けこむ人間を、まさに風景画のように描いたに過ぎないのかもしれないが、各エピソードにいやに劇的な構成をもたらしていることから、その線であれば達成を見ることは出来ない。つまり、濃密なドラマツルギー、奥ゆかしい映画的身振りが見えず、映画としては一線を超えていない小粒感にとどまってしまった。惜しい作品であった。

(評価:★3)

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