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[コメント] 北北西に進路を取れ(1959/米)

サスペンスのムード描写は良いが、アクションになると途端に鼻白むSO-SOムービー
junojuna

ヒッチコック円熟期のらしさが出た作品ではあるが、いまもってみるとやはりアクション描写に限界がある。その躍動感のなさたるや古色時代の産物以上のものではない。完成度の点からいえば、スタイリングの悪さが如実に出た映画となった。恐怖感を伝えるという意味では、現代にも通ずる名シーンとして、ケーリー・グラントがエアプレインに襲われる畑のシーンをあげることはできようが、ラストシークェンス、ラシュモア山での悪党との格闘シーンはまるで三流アクション映画並みの体たらくだ。その後のとってつけたようなロマンスの帰結も大衆迎合のコードに乗っかる手役にすぎない。ヒッチコックの映画はやはりポーズの映画として、真に胸を打つ表現が見当たらないのである。すべて機械的な話術、筆致、音階。ポエジーを欠いたアルチザンの手練という一語に尽きる。しかし、ラブシーンはうまい。男と女を対面させた長回しは、エロティックな空気を作るのに一層深みを見せる。そこにポエジーが生まれているか否かということよりも、単純に“そそる”ということで成立している。その感覚はやはりサスペンスのムード描写にも現れているし、その点では、“伝わる”という点であまりにも巨匠の成せる業である。史上、ヒッチコックを評価したつもりとなっている言辞のお歴々は、その点について“のみ”を持ち上げるべきだった。BUT、ポエジー足らずではあるが―。と。ポーズがシンボルになるところにヒッチコック映画の原点がある。それはメタファーとして機能することを目論んだ映画的な配置であるが、そこにとどまったゆえの限界が、ヒッチコックらしさを際立て、反面惜しくもそれ以上の情感を手にすることができなかった。

(評価:★3)

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