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[コメント] チャップリンの 独裁者(1940/米)

メッセージが主題となる意義ある映画だが技術的な作為は低調なSO-SO作品
junojuna

 チャップリンのフルトーキー第一回作品として記念碑的存在感を打ち出しながら、技術への覚悟を見せた割には垢ぬけない仕上がりとなった低調な作品であった。フルトーキーとなっては現代映画づくりへの意思表明としてもとれることから、本作を同時代の新しい表現に旺盛に取り組んでいた作家たちのフィルムと比較すると大層な差の開きが顕著となって少々寂しい体格を晒してしまっている。おそらく本作をリアルタイムで鑑賞していたであろう小津安二郎が翌年の1941年に製作されたオーソン・ウェルズによる『市民ケーン』を引き合いにして、「ウェルズはチャップリンより上」と評したのは、チャップリンによる本作の出来との比較であったのではないだろうかと推測できる。それくらいに映画の修辞に関しての技術は時代遅れの感が否めない。しかし、銀貨の入ったブラウニー?を食すシーンでは、チャップリンならではのコミックセンスが功を奏しており、その点では健在な印象を刻印してまだまだ衰えてはいない。また、前作『モダン・タイムス』でも提起した社会性の濃いメッセージムービーを踏襲するチャップリンの野心が意義ある作品づくりへと向かわせ、その主題に注視させようとする方向性は一本筋の通ったものであり潔い。しかし、やはり数多の鑑賞者にはそれぞれの見方というものがあり、映画というものをどこか教義めいた風合いに包んでしまうと、その説教臭さが鼻につくという向きを生むのもよく分るヒロイックなムードが気にかかる。時に軟派な緩さが欲しいこともある。お題目中心では鑑賞者を選んでしまうという点で了見が狭く残念な一作。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)ina けにろん[*]

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