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[コメント] ブラッド・ワーク(2002/米)

モチーフのみの顕在化に葛藤が薄くドグマのないSO-SOイーストウッド映画
junojuna

 イーストウッドの映画文法では本作の「絆における善悪の彼岸」というテーマ展開に「器」と「中身」の高度なバランスを描くことははじめから無理があったと思わざるを得ない作品であった。原点回帰のような風合いを描写することには達しているが、その点において挑戦の姿勢を見ることはできず、モチーフ素材の扱いにテーマを決定付けるプロット操作が印象薄く、映画を際立たせる成果としての醸造技術を見ることはできなかった。この映画の欠落感の一番大きなポイントは、イーストウッドが主格となって語る映画で重要なキーワードとなる「私憤」の強度が決定的に足りないということである。本来のイーストウッドドラマの持ち味は、ここでの犯人探しの謎解きとその征伐という構図では決して見ることはできない。本作はその意味で「受動型進行」というスタイルで語ることによって一介のサスペンス映画に堕してしまっている。作家性とはゆえに、主題・素材・文体・語調などの要素で規程付けられる個性である。察するところ、「私憤」の強度を湛えて映画力を発揮するイーストウッドドラマにはやはり、「能動型進行」で躍動するアクションという条件が必須であろう。そうしたジャンル規程があってこそ、老いた肉体であることのドラマ的強度を持ち得ようし、葛藤状態の隔たりの大きさがカタルシスを生むのである。しかし、本作で初タッグとなるトム・スターンのヴィジュアルワークは次作『ミスティック・リバー』の成功へと繋がる布石となった。それ以降のイーストウッド作品の映像イメージに豊かな色合いを与えている功績を見逃してはならない。

(評価:★3)

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