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[コメント] イントゥ・ザ・ワイルド(2007/米)

“言葉” には力が宿っている。 その物語に、これまた ひじょうに力強い映像を付け加えてみせた ショーン・ペン の成長も寿ぎたい。
ありたかずひろ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







さて、この映画に関しては、結末から論じてみたい。

彼が、“Magic” にたどり着くまでの旅路(2万数千キロか?) の果てに、最期は

よく似た植物を食べ間違えたための症状から、衰弱し 餓死に至る。

観ている我々が、「可哀想」「勝手をしたんだから当然」「甘い」「文明を捨ててない」

と、いろんな感想を抱くのは当然。 我々は クリスでは無いのだから。

そこで、彼のたどりついた想い を想像してみよう。

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私は、 −「は〜 ミスったなぁ」 と思った − と想像して、映画を観終えた。

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まったく彼は、 超一流の大学で オールA  ヒョイと車を買ってもらえる裕福な家

どんな働き先にもすぐ受け入れられる社交性 自分を慕ってくれる大人・娘・老人

真理を知る欲求の手助けをしてくれる書物たち  “旅”を成し遂げた精神と身体

たくさんの優れた能力を持っていた。

それが、たったひとつの間違いで 旅の終焉を迎えてしまうのである。

「ミスった」 以外のなにものでもなかったと思う。

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ただ、私はなにも この変な持論を以って この映画を貶めたいのではなく、むしろ

その逆に、クリスの最期は こうであって良かったと思って書いたのである。

彼の旅を終わらせたのが、他でもない “彼自身の判断” によるものだったという

のは、私には悲劇とも可哀想とも思えない。

唯一 ハル・ホルブルック 演じるロンには、「アラスカから戻ったら・・・」という

言葉を発してはいるものの、彼は基本的には どこへも引き返さなかった。

幕引きは この地で為されるべきだったのである。

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(・・・と力説はしてみたものの。 「熊が出るところなんてまっぴらだ。」 「アラスカは

アラスカでも もっとマシな所で過ごしたかったよ。」 と彼は思ったのかもなぁ。)

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また、もうひとつ この映画の感想を惑わせられてしまう点として、私のような ただの

日本人には判りにくい感覚として、米国人がアラスカを目指す という感覚がある。

ペン監督は 映像でうまくその 僻地性は表現できていたがこればっかりは、他国人には

到底思い浮かべられない “感覚的な距離” がある。

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そして最後に。 私にとって この映画は もう少し重要な意味を内包している。

それは、 ひとりの映画作家の成長をリアルタイムで知る経験 をしているコトである。

彼の長編映画4作目。 それを時系列で追い、しかも素晴らしい体験として 通過できる

喜びは、やはり格段に気持ちの良いものである。

映像や音楽 編集などにも光るセンスはあるが、ショーン・ペン の監督としての真骨頂は

題材を選ぶ感覚の鋭さだと思う。

若い頃は、とかく問題児としての ゴシップで名を馳せた彼だが、そういった経験も全て

今日の映画キャリアの糧としている点は、見事 と言ってよいと思う。

                               2010.8.5 鑑賞

(評価:★4)

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