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[コメント] ゆきゆきて、神軍(1987/日)

リアルハードボイルドであり変則的ハードボイルド
ExproZombiCreator

ドキュメンタリーでありながら、ミステリーめいた構成で、物凄く面白い作品です。奥崎氏の手段を選ばぬ行動には度肝を抜かれ、ハードボイルドミステリーを観ているようです。

しかもこの作品、「物語」の面でも特筆に価します。実話に甘えていないのです。

創作作品におけるハードボイルドの主人公は、自らの思想の表明を避ける傾向にあります。しかし奥崎氏は、言うまでもなくそれとは真逆の人間であります。イデオロギーの塊のような性格がこの作品の魅力を形作っているし、作品の核心でもあるというのは奇跡的。ハードボイルド作品は核心の部分で弱い事が多く、「生きるために依頼人から報酬を貰い、何ら興味の無い事件を冷酷に解決する」という、視聴者からすれば感情移入し難い動機で動いている面があります。しかしゆきゆきて〜は、この類型的パターンから完全に外れています。創作作品として観ても新鮮であり、十分楽しめるのです。

この作品にやらせまがいの指示があったり、奥崎氏による自己演出があったとしても、評価はさほど落ちるものではないかと思います。バイオレンスに満ち溢れ、緊張感は緩まずストーリーも全く読むことができない……繰り返しになってしまいますが、物語そのものが面白いです。

どこからどこまでが演出かわからない。それが逆に面白い要素とも言え、まるでアイドルの私生活を想像したりだとか、全盛期の新日本プロレスを観戦しているような気持ちになります。

私は戦争を扱った作品は好きなほうで、『シンドラーのリスト』『プラトーン』『ランボー』『明治天皇と日露大戦争』といった作品を興味深く観ることが出来ました。……しかし「高尚なナントカ」を除外して、創り手の立場になって考えてみれば、戦争という題材をより高度に活用しているのはこの作品のほうではないかと思っています――どの程度「コントロール」して製作しているかはわかりませんが。

また私くらいの年代の人間には、声を張り上げて思想を表明するような人間に対し、怪しい印象を持っている。という方は多いのではないかと思います。政治家、思想化、宗教家、街宣車に乗った右翼、体育会系の教師などは、私にとっては胡散臭いイメージしかなかったし、何より興味の対象にならなかった。そんな私に「声を張り上げるタイプの人間の声にも耳を傾けてみよう」と思わせるきっかけになったのがこの作品で、趣味も広がりました。今では『ゆきゆきて、神軍』に出会えてよかったと心底思っています。

(評価:★5)

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