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[コメント] サバイバル・オブ・ザ・デッド(2009/米=カナダ)

ゾンビ映画最高の脚本……かもしれません
ExproZombiCreator

2010/10/02レンタル視聴。

脚本が良質でありまして、ロメロ・ワールドと娯楽の調和が上手くとれています。総合的な面白さは別として、脚本だけで言えば『ゾンビ』『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』よりも上ではないでしょうか。『ゾンビ』に劣っている点は、ショッピングモールという「舞台設定」です。先が気になるような工夫が、好奇心を煽るための工夫が、そこかしこにあります。

ロメロ作品としては初の直接的な続編ですが、前作の『ダイアリー・オブ・ザ・デッド』とは全く違う作風です。物語の核心に、それなりの説得力を持った目標が存在するので、登場人物を応援する気になります。前作のように悪い意味でリアルな、現代風の情け無い若者は登場しません。

表面的には娯楽性を重視しているように見えがちな『ランド・オブ・ザ・デッド』よりも、遥かに娯楽作としての準備を整えています。『死霊のえじき』のローガンのような、クレイジー・ジジイ同士がいがみ合ってるところに利己主義な州兵が介入するのですから、これは面白いストーリーに決まっています。

盛り上がるストーリーに加え、ジョークも盛りだくさんです。会話にハリウッド映画的なジョークが取り入れてありまして、旧三部作のような面白い会話が復活しています。ゾンビの殺し方のブラックジョーク感も私としては良いと思います。ロメロ作品における暴力シーンは、人間の残虐性を描く意味合いが含まれています。そういった風刺的なものには、通常多かれ少なかれユーモアで皮肉る事が多く、ただ残忍に殺すだけでは説教臭くなりがちです。ひたすら残酷なシーンが続くと暗い作風になり、ストーリーの疾走感を落とす事に繋がりかねません。『ゾンビ』のような混沌とした作風ならまだしも、今作にブラックな笑いを取り入れたのは正解です。

クライマックスは過去作のパターンを踏襲しつつ、より上手くまとめています。やや脇役の描き方が物足りなかった感もありますが、これは尺の問題であり、人物設定自体は良いです。このスケール感で90分足らずという尺は、短かったのではないでしょうか。 本来は尺の長い作品を予定していて、若者やレズ兵を完成版よりも活躍させる予定だったのではないかと推測します。若者には気の利いた会話が用意されてありましたし、銃の腕前が良いという設定です。レズ兵には、ジジイの娘に性的な興味を示す台詞があります。伏線臭が感じられ、それらを活かせば120分近い作品に膨らませる事も可能だったとも感じます。低予算映画なので、予算不足が原因かもしれません。私はてっきり双子娘の片割と、レズ兵によるラブ・ストーリーめいたものが展開されるのかと思いました。

とはいえ面白い作品でありまして、半年ぶり以上にレンタルを利用した値打ちのある作品でした。かなりの低予算映画にしてこれだけ面白く、良い画もいくつかあり、人物を多面的に描けている娯楽作品を、70才目前にして創る事が可能なロメロは恐るべしと言えます。最近話題になったゾンビ映画はいくつかありますが、登場人物の奥行きにかんして言えば、例外なくロメロに劣っていると思います――作品の総合評価や、人物の「魅力」は別問題です。今作の人物の魅力は、そこそこあると思います。そもそもロメロは、魅力ある人物を創る能力に恵まれたタイプでは無いと思います。よってロメロの作品群の中では、人物造形は成功しているほうだと思います。

今作を観るにあたり、「ゾンビ映画」や「ホラー映画」といったジャンルの枠組みは無視したほうが良いかもしれません。予算の差を考慮し、アメコミ原作モノあたりと比べて観てはどうでしょうか? 監督業も兼業しつつ、この脚本をサラっと書いちゃうのは凄いです。

余談ですが、ロメロ作としては珍しく、ラストに良い画があります。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (3 人)Sigenoriyuki 3819695[*] 赤い戦車[*]

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