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[コメント] SUPER 8 スーパーエイト(2011/米)

スピルバーグ作の『ET』『未知との遭遇』は言わずもがな、SF×ノスタルジーの系譜にある本作は、近年では稀少価値を高めつつある正統派エンタテインメントを衒いなく謳いあげており、その真摯な作り手としての姿勢にまずは称賛を贈りたい。
田邉 晴彦

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







序盤。工場に掲げられた看板の文字。「700日(くらい)連続して無事故達成」。外される看板の文字盤。代わりに「無事故達成1日目」。そこからカットが切り替わり、ブランコに揺られる少年へ。非常に印象的なオープニングである。母親を亡くしたであろうこの見るからにナイーブな少年に一気に感情移入してしまった。その父親の朴訥とした感じも良い。トイレで一人咽び泣く父。それを目撃してしまった息子の衝撃と切なさ。二人で訪れた近所のレストランで不意にボーイスカウトへの参加を進める父親。息子との距離をはかりかねている様子がありありと浮かびあがる。

また、主人公の少年とヒロインの少女のやり取りも秀逸。何度となく交わる目線。少女の変貌ぶりに視線を奪われる少年。少年の静かな情熱に心ひかれる少女。二人のやり取りは徐々に頻度と親しみを増し、恋におちていく様子が丁寧に描写される。このように、本作は大作エンタテインメントでありながら、キャラクターとアクションの関係を非常に大切にしており、この時点で「どがじゃーん」とブチかますことしか脳裏に浮かばない凡庸なブロックバスター映画とは性質を異にする。

不満がないでは、ない。主人公とその父親との葛藤、ヒロインとその父親との葛藤、主人公とその親友の少年との葛藤、そして、人間と異星人の葛藤など。序盤から中盤にかけて丁寧にセットアップされた関係がまったく消化されないまま、言葉通り「力技」で丸めにかかるクライマックスには大いに問題があるし、異星人の造作が幾らなんでも凡庸すぎる。人間を食らう異星人とその捕獲を図る政府筋のモチベーションも圧倒的に説明不足で、腑に落ちない、等々。

しかし!それでも!

魅力的な少年少女たちが懸命に走って、転んで、恋をして。人生のうちでほんの数度しか訪れない奇跡的な夏休みを全力で駆け抜ける様子を、僕は好ましく思わないわけにはいかない。そういった意味では、つい先日観賞した是枝裕和監督の『奇跡』との類似性を感じないでもないな。

以上。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (6 人)空イグアナ 緑雨[*] 甘崎庵[*] クワドラAS[*] 3819695[*] Orpheus[*]

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