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[コメント] コクリコ坂から(2011/日)

ジブリ映画の中心に「キャラクター」がかえってきたことを、まずは祝福したいと思います。
田邉 晴彦

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







ハウルの動く城』『崖の上のポニョ』『借りぐらしのアリエッティ』と続く“負の連鎖”。空虚極まるかつてのアニメーション超大国の凋落ぶりに、「これでジブリ作品を観るのは最後だな、きっと」と心に決めて劇場へ向かいました。で、結論から言えば…、普通に「良かった」ですよ。

監督第二作となる吾朗さん、偉大すぎる父・駿さんの創造性と瞬発力には恐らく終ぞ及ぶことはないでしょうが、キャラクターに欲求を与え、アクションでストーリーを前へ前へと運ぶぼうとする語り口は映画監督として十分な資質を備えていると思います。 偏執的な狂い咲きを始めた父親のここ数年の堕落ぶりと比べれば、本作は見事な成果を収めていると言って過言でないかと。

ハウルも、ポニョも、アリエッティも、それを取り囲む登場人物誰一人として欲求が判然としませんでした。そのキャラクターが何をしたいのかが伝わってこないので、アクションが活きず、結果、ただただ監督自身が描きたいオナニッシュなアクション描写を重ねたただけの駄作ばかり。キャラクター不在の映画ほど観ていて退屈なものはありません。

その一方本作では、登場人物がこれでもかと類型的に描かれている上、言葉にだしてはっきりと自分の意思を伝え合うので欲求がビンビン伝わってきます(笑)古典的というにはあまりに捻りのない単純明快さに気恥ずかしさをおぼえたり、説明的すぎる描写に辟易とする人ももちろんいると思いますが、前三作と比べればはるかに観客がシンパシーを感じやすい作品であることは間違いありません。

また、自転車が坂を下っていくシーンで語りあう主人公二人の背景の描写の巧みさには惚れ惚れとしましたし、ボロくなった建物(部室?)内でキャッキャと繰り広げられるコミカルなキャラクター間のやりとりも楽しい。長澤まさみの「どうすればいいの?」等、声の演出も抑揚のついた色合い豊かな仕上がりでした。

というわけで、監督第二作としては十分に及第点だと思いますし、彼の作品であればまた次も観たいと思います。おすすめです。

以上、取り急ぎ、感想まで。

※余談ですが、もちろん、ひどい部分も多々あります。しかも、それは脚本の落ち度であり、はっきり言えば、父・駿の責任。

○俊は最後のシーンで自分と海の父親が別人であることを聞いても別段驚いた様子をみせませんが、あれは明らかに不自然でしょ。海と違ってその時点で俊は真実を聞かされていなかったはずですから、当然びっくり仰天のはず。「あ、びっくりしすぎて海におちてそれに海が手をさしのべるという序盤の展開を活かしたブックエンドか!?」と思いきやそんなこともなく。なんだそりゃ。その一件でこいつらグダグダ悩んでたんとちゃうんかいオラオラ…みたいな。

○あと、あの寮みたいな建物を取り壊すのは元々は学生たちが求めていたからではないのでしょうか?途中の全校生徒集会や新聞記事を観る限りはそんな感じでしたけど。あれだけ大々的に改修した建物を作業が完了した途端に取り壊せという決定が下るのも、如何にも唐突で釈然としない…というか。完璧にご都合主義な展開ですよね。

結論。駿さんにもうストーリーテリングを期待するのはやめましょう。

(評価:★3)

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