[コメント] チェイサー(2008/韓国)
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「ゴミ」や「マヌケ」「クソ野郎」などの人間関係の短絡化・記号化・矮小化という状況から人間関係が複雑化・深化する過程が、「ぶつかりあう」という事態に収束されていく。ここに「殴打」「接近戦」「追跡」のイメージがすっぽりきれいに収まる。例えば、逃走者を追跡車が背後から撃つ、とか、そういった光景はこの作品にはふさわしくない。徹底的に、追いすがって殴り合わなければならないだろう。
ついに救われなかったミジンの留守番電話の「遠距離感」の無常が際立つ。おそらく救出を果たせば「ゴミ」はミジンを抱きしめたであろう(究極の接近)、と私は思うからこそ、このシーンは胸に迫るものがある。これを経て、なんと水槽に沈められたミジンの首と「ゴミ」が「衝突」するクライマックスシーンに到って、やるせなさと怒りの風景にも関わらず、「笑い」をすら呼び起こしてしまう、このグロテスク感が面白い。そして、ぶつかりあう、という風景の中で「ゴミ」と「ミジンの娘」の交感が温かい。ラストシーンで手を握るのも、「接近」の意味合いの中で不可欠な演出だろう。
本作中では特異な「遠隔攻撃」のイメージは、「人糞を投げつける」という行為でも提示されるが、これはこれで象徴的。
犯人の造形は、「接近」としてのセックスを封じられ、「殴殺」に「接近」の糸口を見いだしてしまった破綻者として描かれ、「接近の不能性」は各所に顕れており、象徴的な役割を演じている。
冒頭、渋滞の大通りから車が一台横にそれる、ただそれだけの場面に不穏を醸成出来る手腕からしても、虚仮威しにとどまる監督ではないだろう。キリスト像は若干興醒め。
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