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[コメント] 第9地区(2009/米=ニュージーランド)

シャルト・コプリーが汚物にまみれながら全力で連発する"Fuck!"を全力で支持する。アラはこの際関係ない。ところでコプリーの台詞がほとんどアドリブって本当なのか?
DSCH

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







エイリアン父:命名「クリストファー」とは人間に付けられた「管理」を目的とする「記号」としての名だろう。例えばこれが「ジャージャー・ビンクス」といった「エイリアン的」語感で呼ばれないことにこそ、アイデンティティを否定され「管理」されることの苦痛、アイデンティティを否定し「管理」することのおぞましさが漂う。

そういったセンスは外さず、筒井康隆的グロとブラックユーモアに包んでテーマを屹立させる前半部はキレにキレる。「中絶!中絶!」とか「エイリアンと性交して感染」の報道シーンのモザイク、そして猫缶には狂喜乱舞した。きっと筒井御大も喜ぶに違いない。カニバリズム呪術も当然「本気」ではなかろう。日本人を「フジヤマ!サムライ!ゲイシャ!」と笑う無知の差別をバカにするのと同じ構造だ。当然の作法。この素晴らしき悪趣味を愛してやみません。

エイリアンとヒトの習慣やテクノロジーが近似値を示しており、「全くの異者でない」ことにこそ、ヒトがヒトを管理する醜悪さもまた宿る。クリストファーの息子。ほら、可愛く見えてきたでしょ?それを何でこんな仕打ちをするのか、と。

テーマとしてはおそらくそれほど目新しいことでもないのだが、徹底して血と錆と埃の汚濁にのたうつ描写と斜に構えたユーモア、そしてあまりに効果的なラストの情感。ドンパチへ転向する潔さも残念ながら完全にツボ(終始揺れるカメラが、対戦車ライフルのスナイパーが狙いを定めるシーンでは静止する辺りなど、実は芸が細かい)。

あと、妙にツボだったのはシャルト・コプリー / デヴィッド・ジェームズの「声」。シャルト・コプリーも南アフリカの出身だそうだ。どこの訛りかちょっと分からないのだが、舞台設定に関わって意味を持ってくるような気がする。

アラがあることは認める。展開の早さと構成力に麻痺していることも認める。それでも否応なしに狭間に落ち、汚物だらけの掃きだめの中、露悪を一手に集めて全力で"Fuck!!"を連発するシャルト・コプリーの「屑鉄の花」と、クリストファー父子の「僕らの星に帰るの?」「そうだ」のやりとりに緩んでしまった自分の涙腺を裏切ることはできない。

ほぼ直情的に★5を献呈します。

(評価:★5)

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