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[コメント] モンスターズ 地球外生命体(2010/英)

モニタ越しの「襲撃」。伝聞による「隔離」。ファインダー越しの「死」。「それ」は本当にいるのか。あらゆる「壁」に「封じ込まれた曖昧さ」が世界(日本を含む)において、事態を「本当に」認識することの難しさを提示する。これを克服する手立ては、「歩く」ことより他にない。低予算映画とのことだが、ロードムービーとしての仕立ては必然であり、仮に予算があったとしてもこういう撮られ方以外にないだろう。
DSCH

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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まず、アヴァンタイトルのテロップの胡散臭さが印象的だ。これが確たる事実である前提で提示されている保証は何もない。ニュース映像のタコは着ぐるみ合成かと見紛う胡散臭さで、主人公も死骸しかみたことがないという。事態を正確に認識できている人間は極めて少ない。

しかし、「現場」にあったのは生々しく冗談のような事態で、それはしかし誰かの想像でも捏造でもなく確かにそこにあり、血が流れている。これは若干無理がある動機とはいえ「歩かざるを得なくなった」人の視線を通した物語だが、曖昧さを盾に身を守ることの欺瞞を思い知らされる。重い現実を突きつけられる気がする。

タコはタコで辻褄があっている。結局そういう話になっている。しかし、タコはあらゆる事象に代入可能だ。「壁」の中に「何か」を封じ込めること。今のアメリカであれば、越境する怪物は「難民」なのかもしれない。今の日本であれば、壁の中のあの廃墟は「原発」なのかもしれない。「曖昧さ」から、色々なことを考えらせられた。

それは、「歩いて」でなければ、「本当には」認識できないのである。そして、多くの場合、「壁」は「中」からの圧力に無力なのだ。そもそも「中」とは、「外」とはどこなのか。万里の長城のような「壁」。その壮大な無意味。開高健の「流亡記」が思い出された。

ただ、こういうテーマを消化しながら、頭でっかちな映画でないことが好印象でした。いい画がいっぱいある。ラスト、暗闇で赤く妖しく明滅する怪物の交尾(?)と、主演二人の呼応のオーバーラップ。いわく言いがたいものがある。タイトルバックは結構ダサいけど。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)けにろん[*] ぽんしゅう[*]

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