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[コメント] ハードコア(2015/露=米)

主観とパルクールの身体感覚は「ミラーズ・エッジ」の延長線上にあり、人造兵士の無我の悲哀や超能力者の介入は小島秀夫の影響下にある。何よりこれは18禁スーパーマリオだ。私は何の話をしてるんだ・・・と取り乱す程度にはゲーマー向け。しかしそうやって片付けるには惜しいほど面白い。バイオレンスの過激が周回してギャグに至るユーモア感覚がスパイスになっている。そしてスタントさん万歳である。
DSCH

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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主人公は言葉を持たない。言葉よりアクションだ。制限時間がある。倒れても起き上がる。とにかく走る、走る、格闘する、撃つ。ヘイリー・ベネットは黒いピーチ姫だ。姫を助けるために走る。実にシンプルな動機。しかし助けたと思った彼女は幻想であり、記憶を取り戻した先の道程、「裏面」から彼の本当の戦いが始まるのだ。人を突き動かす記憶。その強さと哀しさ。なんだか原初的な興奮がある。ゲームも映画も、走り続けることに興奮が回帰するのだろうか。これは『アドレナリン』的でもある。Don't stop me now.

血生臭い映画ではあるのだが、コプリーや随所に挟まれる主人公のジェスチャーの端々からユーモアが読み取れ、殺戮の果てに見出される紐帯に清々しささえ感じ、やたらとアガる映画だ。主人公は血の通ったいい奴であるようだ。観了後の印象は『地獄でなぜ悪い』にすら近いものがあった。映画内という遊戯場で、ひたすら戦い、自己を見出すこと。

主観視点は一発ネタ的ではあるが、壁キックジャンプや高所からの飛び降りでの地を蹴る感覚、宙返り、スライディング撃ち、耳元をかすめる銃撃の擦過音などの身体感覚を共有できる意味で、第三者視点とは違うスリリングな映像体験がある。いざ見始めてみると、第三者視点で見るとどうなるのか、リアルタイムに組み立てながら見ている自分がいる。これがまた新鮮な感覚。

シャルト・コプリーが好き、というニッチな動機だけで、あまり期待せずに見始めたのだが、彼の七変化独演会が貢献しているところは確かに大きいものの、それだけではない結構な掘り出し物だった。ミュージシャンでもある監督の自作曲がよい。エンディング曲もテンションがブチ上がる。悪役は『時計じかけのオレンジ』のアレックス風味の演技、ティム・ロスの無駄使いも楽しい。

(評価:★4)

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