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[コメント] フロム・ダスク・ティル・ドーン(1996/米)

「お前ら一体何を大騒ぎしてたんだ!」素晴らしきメタなボケツッコミ。
DSCH

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







終盤、爆発炎上する「ティッティー・ツイスター」亭からクルーニールイスが脱出したのち、ブツの取引相手であったカルロス(マリン)がクルーニーに対して吐く台詞である。これに対しクルーニーが魔窟と知らずに取引場所に指定した不用意をなじり、罵倒し、結果として弟を亡くしルイスも天涯孤独の身となったことを非難するのだが(ここの台詞がたいへん面白い)、これを自分は勝手に脳内で翻訳し直した。すなわち、

マリン  「お前ら一体何を大騒ぎしてたんだ!」

クルーニー 「ロドリゲスに夜通しレイプされたんだよ!」

その途端にこの映画が自分の中で愛すべき映画に昇華した。この映画は、「お前ら一体何を大騒ぎしてたんだ!」というボケツッコミ台詞で爆笑させるために逆算構築されている。これはまぎれもなくロドリゲスという暴れ馬的破綻要素を破綻要素のまま計算的に織り込んだ「構成力」の勝利である。

本作は二つの「結果」で構成されている。すなわち、冒頭雑貨店の爆破と、ラスト「ティッティー・ツイスター」の爆破である。

冒頭、雑貨店のシークエンスでは当初テキサスの地図を手に入れるためだけであったのが、結果的にタランティーノの神経質な錯誤(このカミソリの様な佇まい。きっちり留められた第一ボタン!)を発端に警官殺し、銃撃戦に発展し、人質に逃げられ、果てはなぜか店も爆破炎上して消滅するに至る。本来の理由「オチ」である「ただの地図」についてはことの最後に語られ、結果と目的の乖離に爆笑することになる。これは経緯を知らない部外者が見れば「お前ら一体何を大騒ぎしてたんだ!」というツッコミを入れるべきシチュエーション構成だ。さらにクルーニータランティーノにツッコミ的に説教を垂れる。すなわち「”賢くやる”ってことを知らねえのか?”賢くやる”ってのは、1、人質をとらず、2、警官も殺さず、3、建物も吹っ飛ばさないことだ」

これは本作の構成の解説、予告前振りである。つまりこのシークエンスは暗にこう言っているのだ。これから起きる事件は、

「1、 ”賢くない”形で 2、ばかげた破綻要素をはさみ 3、建物を吹っ飛ばし 4、最後にツッコミを入れる」 と。

2で破綻度合いを強化すればするほど、最後のツッコミが映える。つまり、「映画界最強の破綻(悪い意味ではなく)」であるロドリゲスに縦横無尽の破綻の舞台を与えたタランティーノの脚本の賢明。ロドリゲスの瞬発力への理解(転じて「持久力の欠如」)を見抜いてロドリゲスパートを1時間でおさめる。これは実にいい塩梅の破綻である。最後のツッコミを映えさせる適切な人材は確かにロドリゲスしかいない。

中盤からの破綻は間違いなく仕組まれたものであり、これはロドリゲスをネタにした壮大なアクションコントだ。前半のキレについて語られやすいが、意外なことに、これはきちんとしっぽまでアンコの詰まったタイヤキ映画だ(伝わりにくいか・・・)「お前ら一体何を大騒ぎしてたんだ!」というツッコミがなかったらクサすところだったが、このツッコミのために映画が俄然輝く。暴れ馬を乗りこなすタランティーノ、流石としか言いようがない。自ら退場してロドリゲスに明け渡すメタな潔さも本当に面白い。やっぱりタランティーノは映画を愉しんでるな。面白いヤツだな。

・・・という見方をすると、タランティーノロドリゲスは本当に仲がいいのか、多分に疑わしいような気がしてくる。

ところで、当初の目的との結果の乖離、目的のための手段や過程がばかげた方向に狂っていくところに笑いを見いだすタランティーノのセンスはコーエン的でもあるが、本来は「笑い」の基本的な作法なのかもしれない。要はその「ズラし方」が「個性」と呼ばれるものなのだろうか。いずれにしても、タランティーノはその構成力において「理」の人物であるという評価をすることは不自然ではないと思う。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)けにろん[*]

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