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[コメント] ウォレスとグルミット ペンギンに気をつけろ!(1993/英)

無言のペンギンの所作の充実が凄まじく、隅々まで伝説の悪党感が漂う。この無言に対峙するアクション探偵グルミットの無言にも歴戦の猛者感があり、さながら無言のプロ同士の戦いの様相を呈している。もっとも、手練れかどうかなんて「漂わせる」だけでほとんど説明してないのがミソ。「雄弁な無言」の追求の最高峰の一つだろう。めちゃくちゃ面白い。(末尾は1歳半の娘と本作に関する余談等です)
DSCH

**ネタバレ注意**
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ウォレス氏のボケも量、質ともにちょうどいい。何しろ一番の見せ場で彼は「眠っている」のだ!(最近の彼はちょっと喋りすぎかもしれない。グルミットも「もう少しで喋りそう感」までは行かないほうがいいような気がする)

「いいキャラクタ」は、細かい所作一つで様々な過去を「想像」させる。キャラの魅力は受け手が補完するだけでなく、補完以上に勝手に「想像(創造)」し膨らませるものでもある。あくまで語らずに「想像」の伸びしろを残すのは作り手のセンスだ。言うほど簡単ではないこれが、本作においては凄まじい。

特に、めん棒を握って待ち構えるグルミットに躊躇無く拳銃を向け(どこに持ってたんだ?)、無言で銃口をくいくいっと傾けて「さがれ」と要求する所作が個人的に萌える。この「プロ感」「場慣れしてます感」はただごとではない。こやつこれまでどんな修羅場をくぐってきたんだ、何故にそんなに射撃力高いんだ、何故に一夜漬けでNASA開発のメカズボンをハッキングできるんだ、逮捕されても余裕で脱獄出来るから焦らずに神妙にしてるのか、「フェザーズ・マッグロウ」の呼称の由来って何なんだ・・・

・・・と「ただごとでなく」しているのは僕の勝手なのだが、こういった妄想の契機の精度が圧倒的。キャラの充実に寄与する説明の端折りがユーモア由来だというエンタメとしての死角のなさにも感心するし、ゴージャスで確信犯な劇伴もイカす(家出シーンの叙情的な劇伴とグルミットの涙の質感が最高)。改めて観ましたが本当に凄い。

(余談1) 宮崎駿って上記の点がかなり巧くて、『ナウシカ』のクロトワさん、『ラピュタ』のムスカ大佐やドーラ婆さんなんて最高だと思うのですが、最近は何故かこのへんがどうでもよさげで、思い入れが沸きません。

(余談2) ペンギンの手配書(「このニワトリに注意」)の「ゴム手袋による変装」を、弱冠1歳半のウチの娘は見破りました(いわく「ぺんぎんさん、ぺんぎんさんお帽子」)。「変装」が解かれてようやく気づくウォレス氏の"Good grief , it's you ! "(何だ、君か!)というボケはもちろん、「普通気がつくでしょ」というツッコミがあって成立するものですが、ウォレス氏の観察力は1歳児にも劣るのか〜、と改めて面白く観させていただきました。

(余談3) ちなみに「ポッポはやいね〜、すごいね〜」とも言っています。確かに凄いと思います。キートンは未見ですが、ナンセンス感とスピード感は『ラピュタ』の列車チェイスに匹敵すると思います。(ドーラ婆さんがオートモービルでドリフトして小屋をぶっ壊すシーンが大好きです。別の映画の話ですみません。ちなみに線路のポイントを射撃で切り替えることと、連結部を切り離して追跡者に「あばよ」と手を振るのが両作に共通していますが、本作のほうが後発なんですね。キートンのことはわかりませんが、影響受けたんでしょうね。

(評価:★5)

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