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[コメント] 気狂いピエロ(1965/仏)

最強のアイドル映画。
DSCH

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







「デカダン」「つまらない現実」に絶望して「キレイ」を追求し戦おうとするが、結局抗えず逃げ回るうちに何よりも「我」からの逃げ場がなくなってしまう文芸オタクの悲劇。ぽんっ、と弾けて海と太陽に溶ける。「キレイ」に「キレイゴト」のまま回帰させたのか、それとも諧謔なのか。やはり後者だと見よう。

徹底的に生衝動の輪郭の強固なカリーナベルモンドをからかう時、そして「ピエロ」というタイトルの意味を考えた時、そして「空耳」に苦しむ謎のおじさんのシークエンスの意味を考えた時、その「キレイゴト」は「空騒ぎ」であり「意味がないものだ」と考えるべきだろう。ベルモンドカリーナ、生と死へのベクトルが真逆の二人のディスコミュニケーションが際立つ。ベルモンドは自らが空疎だということに気づいていないのだ(最後の瞬間に気づくようだが)。ベルモンドの言葉はファッションにすぎない。

これは全く難しい映画ではない。「むずかしい」と見えるものには「意味がない」からだ。ひたすら保守的な映画作りのセオリーを破壊しようとするアナーキズムから何を読み取るか。

同族嫌悪(足下にも及びませんが)にも似た感情で社会人失格的現実逃避映画を嫌う私(ほんとうは好きなくせに)は、上記のスタンスと、「コミック本とぬいぐるみを抱えて跳ね回るカリーナに鼻血すべきで、信ずべきものはこの一点」という純情通底観念で一瞬にして救われる。

いかなる戯言もカリーナと海の前では無力だ。それこそは最強のデカダンなのかも知れないが、これは、ぐるぐる迷走した末にシンプルな真実(ほんとうの真実とは得てして単純なものだ)に帰結するアイドル映画である(あっ!言葉にすると陳腐!だっせえ!)。

人生とは(映画とは)そんなに難しいものではない。もしかしたら私たちは「意味」というものを物事に求めすぎているのではないか(あっ!言葉にすると陳腐!だっせえ!)

そして美しいものが美しく、ただ美しく意味の不在の中で映し出される時、その度肝を抜かれるような異常な美しさをどうやって否定できるというのか。それが「映画」として許されるかということを論じる力はないが、既にこれらの言葉もカリーナと海の前では無力である。(あっ!言葉にすると陳腐!だっせえ!)

カリーナは勿論だが、ベルモンドの偉大なお鼻も素敵。)

(評価:★5)

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