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[コメント] アンダー・ザ・チェリームーン(1986/米)

86年ゴールデンラズベリー最低作品賞受賞。「プリンスがどんなに凄いヤツか、お前等にはわからんだろう」byミックジャガー
週一本

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







プリンスには超有名なエピソードがある。プリンスの才能に魅かれたローリングストーンズのミックはロスで行う二日間のコンサートの前座をプリンスにオファーする。しかしステージに現れたバイセクシャルな恰好の黒人プリンスを嫌悪する白人のオーディエンスは激しい罵声を浴びせ結局二日間とも前座を全うできずプリンスはステージを途中で降りる

ミックは客に、自分たちのファンにこう言い放った

「プリンスがどんなに凄いヤツか、お前等にはわからんだろう」

プリンスがトイレで泣いているのを楽屋を訪れていたデビッドボウイが目撃している

♂♀

私はプリンスのファンだ、多分大ファンといっても過言ではないくらい好きだ

だからこのアンダーザチェリームーンも満点しかありえない、スマン。しかし大ファンと言いつつこの映画をみたのは今回が最初(2017現在)だった、重ねてスマン

しかしこの映画、ファンが「そんなに言われるほど悪くない」と言うようなレベルの作品かというとそうでもない、決してそうじゃないぜ

このプリンス監督の処女作はモノクロで撮られている、それが作品全体にクラシカルな印象をあたえ、作品のコメディー調に対して効果を生んでいる

まずオープニングクレジットを交えた少し長めの、マダムとピアノを弾くプリンスとテーブルナプキンを使う伝言のシーンだけでもかなり楽しい

つまり撮影も彼の音楽同様ストレートな心地よいフィーリングが感じられる、カメラを360度パンさせたタイミングで登場人物がインしたり、ラストのボートから崖の岩肌に照らされるサーチライトの明暗なんてなかなか素晴らしいよ、ホント

だいたい画が死んでない、見ていて面白いイキイキしとるんです。これはもしやプリンスにある種「撮る」天稟があったという事では?(撮影はミヒャエルバルハウス)

極度にシャイなプリンスが軽口を叩きまくるジゴロを演じる時点で、おいおいプリンス大丈夫か?と心配になるが、プリンスは頑張っている。上手いか下手かなんて私はファンだから…よくわからないとでも言っておこう(ディープなキスシーンが結構でてくるけど、正直キスは決して上手くないな…)。プリンスが頑張っていればいいんだ、俺は…ファンだから

たしかに人物の心理描写や動機づけが甘いし、整合性のない唐突な展開もある。時代設定が昔と言っているくせにバカでかいラジカセが出てきたり

でもさ、決まりきったコード進行で名曲が生まれるか?ありふれたボイシングで魂が揺り動かされるか?そんなもんはクズなんだ捨てちまえ!

それについて終盤に謎演出がある。オープンカーでヒロインを連れ出して路地裏に停める、プリンスは後部座席に身を移しなぜか唐突にサングラスをかける(真夜中)、彼女の問いかけには一切無視、そしてようやく出てくるセリフがアイラブユー、アイヘイトユー、アイラブユー…次のタイミングで20世紀最強のクールファンクナンバー「kiss」が流れ二人は抱きしめ合い激しく唇を合わせる

ん〜なんか分からんがとにかく面白いんだ、いいんだよコレが!(舞台がヨーロッパのリゾート、そしてモノクロってだけだがフェリーニ作品がどうしても頭に浮かぶ、夜の競馬場のシーンのライトなんて「甘い生活」みたいだぜ)

ヒロインと電話で会話するシーンではマイルスデイヴィスのユアアンダーアレスト(前年、85年リリース)があからさま目立つ位置に置かれている

マイルスはプリンスの才能を認め公言し、二人には音楽的な交流があった

このユアアンダーアレストはマイルスがポップへ接近した作品でマイケルジャクソンやシンディローパーの曲をカバーしていることで有名、プリンスの曲はないがしっかり尊敬するミュージシャンに敬意を表すのはやはりグッとくるなぁ(劇中には他に伝説のソウルシンガーサムクックの名前も二回でてくる!)

ちなみにマイルスがプリンスの音楽的才能を評価していたことがどれだけの事か(今更すぎて大して必要ないがファン心理として)触れておきたい

マイルスがどれほど目利きだったかというと、彼のバンドにはジョンコルトレーン、ウェインショーター、ビルエバンス、キースジャレット、バービーハンコック、チックコリア、トニーウィリアムス、ジャックディジョネット、などなど食あたりをおこしそうなくらいの化け物達がその才能を見いだされメンバーになっていて、ジャズ以外のロックやソウルのフィールドではジミヘン、マーヴィンゲイ、ジェームスブラウン、スライストーンなどを評価している(そんなマイルスがプリンスの才能には賛辞を惜しまないんだぜ!)

この作品は86年のラジー賞、最低作品賞、最低男優賞、最低監督賞、などを受賞(ちなみにその前年はスタローンが総ナメ)

パープルレインが大当たりして気を良くしたのかプリンスが自ら監督をしたこの作品、そりゃファン以外の人が見たら疑問符がつく内容かもしれないが、でもコレがさ、「映画なんて何も知らねーナルシスチックな黒人野郎が調子のって撮りやがって」みたいな(おっと、こりゃファン特有の被害妄想ってやつか)、そんな気持ちが働いてのこの御大層な受賞結果なら俺は悲しいぜ。何度も言いたい、これはなかなかに楽しい映画なんだ

「プリンスがどんなに凄いヤツか、お前等にはわからんだろう」

(評価:★5)

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