久しぶりの名作。見終わってしまうともっと深いんだけど、そもそもスタートの時点から心を掴まれていたのは自覚していた。リリー・フランキーと木村多江のやりとり。二人の関係を示した何気ないワンシーンだが、私はこのシーンだけでノックアウト。最早この後の展開を気にせずにはいられなかった。

じゃあ肝心の内容は、というと言わずもがな面白い。軸となってくるのは一夫婦のことだが、それを囲む周囲の身内、職場の仲間、はたまた社会に至るまで全てがこの作品の軸にビシビシ関わってくる。 子どもを失ったことにより鬱になっていく翔子。夫の気持ちがわからなくて全てを見失ってしまう。世間では子どもを殺しただの虐待だのといったニュースが流れ、裁判になる。そんな様を描き続けるカナオ。確かに感情を素直に表情するタイプではないかもしれない。それでも嬉しい時には絵を描いて、描きたくないものを描けと言われた時には熱くなる。そんなカナオ自身、父親を自殺で亡くしている。つまりは逃げたわけだ。 だから彼は逃げない。翔子を見守り、受け入れ、伝わりにくいかもしれないけど愛し続ける。優しさが口調や佇まいだけでなく滲み出る。

この作品を芯から理解するためには一度の鑑賞じゃ足らないだろうな。きっといろいろ意味がある。翔子やカナオみたいな人柄ももっと理解したらもっと面白くなるはずだし、最後に尼さんに言われた「上手く生きる」というメッセージが響くのだろう。ぐるりと囲む周囲の全てが関わりを持ち、全てが繋がっているはず。また見ないとな。

この作品の成功は主演の二人の好演なしでは成り立たない。文句なしの演技だった。そして一夫婦のことをテーマにしつつ、周囲のことまで上手く描いた橋口亮輔監督に拍手を送りたい。

「大事にできるものがある時は大事にしとけよ」いい言葉だ。